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<<   作成日時 : 2013/05/09 02:17   >>

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ブルーバックスから出ている本です。
武村政春著「新しいウイルス入門」(ブルーバックス・2013年01月刊行)
ウイルスの入門書や解説本はたくさんありますが、
この本では、巨大ウイルスの話題を取り上げており、
最後の方におもしろい「哲学的」話が書いてありましたので、
その感想を書いておきます。


新しいウイルス入門 (ブルーバックス)
講談社
武村 政春

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興味深い巨大ウイルスの発見物語から始まります。
「ミミウイルス」という奇妙な名前がついています。

ウイルス学の入門書ですから、分子生物学の基礎からウイルスの「生態」まで、幅広く基礎の説明があります。
ウイルスの構造、働き、病原性、などなど、この本の多くのページを割いてわかりやすく解説してあります。

一般に、生物学の教科書ではウイルスは生物ではないことになっています。
この分野になじみのない人なら、ウイルスとくれば病原体でしょうし、病原体となれば「生物」だと感じていることでしょう。
実際、細菌とウイルスの区別がつかず、微生物や、あるいは両者を合わせて病原体と同義に理解している人も多いでしょう。
ところが、細菌は立派な生物ですけど、ウイルスは生物ではないらしい。
ってことは、両者は根本的に異なる「モノ」となります。
人は生物ですから細菌の仲間ですけど、ウイルスはそうでない、、、、

ウイルスが生物かそうでないかは、実はあまり重要ではありません。
生物とは何かという定義ができませんから、生物の共通する特徴をあげるしかないので、例えば細胞を持つ物を生物だとすると、ウイルスには細胞という構造物を持っていませんから、生物ではないということになります。

このことを、著者は「学者が勝手にそう決めているからだ」としています。
まぁ、そうでしょう。
というか、誰かが言い出ださないと始まらないので、そうするしかない。

本書では「生物学辞典」(東京化学同人)の記述を多用し、ウイルスの説明をしています。
東京化学同人の生物学辞典は2010年12月に出たのですけど、それまで生物学辞典と言えば岩波書店版でした。
今年2013年2月に第5版が出ています。


岩波 生物学辞典 第5版
岩波書店

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(今月2013年5月いっぱい、特別定価です。お早めに!)

今回のブルーバックス本は2013年1月刊行ですから、岩波5版はまだ出ていません。
なので、こっちも参照しながら読むと、まぁ、ほとんど同じです。

ウイルスの大きさについては両辞典ともに書かれていません。
しかし、光学顕微鏡では見えず、電子顕微鏡で見える、とされていますから、それなりの大きさは限定できます。




ウイルスの生態は調べれば調べるほどわかってくるわけですけど、
「起原」というのは、何事も調べるのが難しい。
ウイルスの起原も例外ではなく、謎が多い。

その謎を解く鍵になるかもしれないモノとして「巨大ウイルス」があります。
本著の8割近くを基礎と入門で割いてあったわけですが、その理解を持ってこの新しい発見を見ると、興味深いことがいろいろと出てきます。

今では多くの「巨大ウイルス」が見つかっているわけですが、調べれば調べるほど奇妙な物体であることがわかってきています。
ウイルスは生物と非生物の境界だと思われていましたが、巨大ウイルスはさらにその境界を狭めています。
もしかしたら、生物の分類や進化学に大きな影響を与えるかもしれません。

冒頭で出てきたミミウイルスは光学顕微鏡で見えるくらい巨大です。
ウイルスにはDNAまたはRNAのいずれかの核酸を持つわけですが、
このウイルスの核酸はなんと1200キロ塩基もあり、遺伝子が911個も
あるそうです。
遺伝子数ではマイコプラズマ(立派な生物です)の525個より多い。
おもわず「生物」と呼んでしまいそうなくらい巨大です。

岩波の生物学辞典第5版には、「ミミウイルス」の項が立っていて、
興味深い記述が書いてあります。
ミミウイルスより巨大な「ママウイルス」のことまで書いてあります。
日本語の50音で「み」の前が「ま」だから、ミミより大きいのでママ、
というわけではありません。たぶん。
画像


ウイルスに感染するウイルスまであるそうです。
感染を受ける方がママウイルスで、感染する方をヴィロファージ
(virophageだから、「ウイルス」の発音と同様ウイロファージでも
よさそうなのに)と呼ぶそうです。
(バクテリアに感染するウイルスがバクテリオファージ、単にファージ)

生物学辞典のおもしろいところは、巻末の生物分類表でしょう。
岩波は伝統がありますから、なじみがありますけど、
東京化学同人版も工夫されています。


生物学辞典
東京化学同人

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岩波のウイルス分類表には、早速ミミウイルスが載っています。
かたちも比較できるような縮尺で多数掲載されているのですけど、
ミミウイルスは大きいので、これだけ別スケールです。
画像


今回のブルーバックス本にもvirophageのことが書いてあります。
こちらはミミウイルスに感染するウイルスとして登場しますが、
日本語がヴァイロファージになっています。
どうなんだろう?
ウイルスは英語読みではヴァイラスに近く、仲間内ではそう発音しますけど、一般の人相手にヴァイラスなんて使うと鼻につきますよね。

なんでファージとくっついたときだけヴァイロファージとかヴィロファージとか言うんだろう?
やっぱり素直にウイロファージでいいのでは。
外郎(ういろう)みたいだけど、親しみやすいのでは?

それはともかくとして、巨大なゲノムを持ち、多数の遺伝子を持っていて、しかも翻訳過程に必要なタンパク質の遺伝子まで持っているのに、ミミウイルスなどの巨大ウイルスは独自に転写・翻訳はできず、感染先の細胞に転写や翻訳をしてもらっています。
生物の特徴を、細胞内での代謝機能を持ち自己複製ができる、とするなら、古典的ウイルスも巨大ウイルスも両方の特徴を持っていませんから、これらの特徴を持つ物を生物とするなら生物ではありません。
(「やさしいバイオテクノロジー」にも書いています)

ウイロファージ(と勝手に書きますね)が巨大ウイルスに感染するとはいっても、感染先の巨大ウイルスは自己複製できませんから、巨大ウイルスが感染先の細胞内に入ってもらわないと、ウイロファージの複製もできません。

ミミウイルスは、次の本にも出てくる。
今回のブルーバックス本に何度か登場する本です。

まだ科学で解けない13の謎
草思社
マイケル・ブルックス

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13の謎の中のひとつに「巨大ウイルス」があります。
画像


この本には「死」「自由意志」「ホメオパシー」「プラシーボ効果」など
興味深いが多く出てきます。
画像


ミミウイルス以外にも巨大ウイルスが続々と発見されており、発見されるハナからゲノム解析も進みますから、分類学的にも進化学的にも興味深いことが続々とわかってきています。
今後どう展開するのか、楽しみな分野です。




で、このブログを書こうとしたのは、ここまでの話を書きたかったからではありません。
ここまでは前振り。

最後の章(「エピローグ」ですけど)の終わりの方に「哲学的」考察が書いてあり、それに反応したからです。

ウイルスは、今回の巨大ウイルスも含めて、宿主(「しゅくしゅ」と読みます。「やどぬし」ではありません)の細胞内に感染して、そこでパーツを増やしてもらって増殖し、放出されます。
つまり、宿主細胞内に感染している状態、宿主細胞から放出されて空気中に浮遊したりドアノブとないろんな場所にくっついている状態があるわけです。
ウイルスは結晶化させることができるわけですが、放出されたウイルスはウイルス粒子となっています。
さらには、ウイルスの核酸は宿主細胞のゲノムの中にも組み込まれています。
(我々の体細胞のゲノムには、いろんなウイルスが入り込んでいます)

で、著者が言うには、どれが本来の姿なのか?

生物学辞典にはウイルスの絵が描いてあるわけですが、これはウイルス粒子の状態の絵です。普通はウイルスと言えばこの状態を思い浮かべます。
宿主細胞に感染している状態は思い浮かべないでしょうし、まして、宿主細胞のゲノムに入り込んだ姿などは考えたりしないでしょう。

ならば、本来の姿というのはウイルス粒子というコトになります。

もちろん、これは人間が思い浮かべるのにつごうのいい姿であって、
生物学的に(といってもウイルスは生物じゃなから、、、あぁややこしい)
生態学的にウイルスの本来の姿かどうかはわかりません。
というか、「本来の姿」をどう定義するのか?

ここで、著者は、ヒトとの類推で考えます。

生物としてのヒトの場合、この文章を書いていたり、この文章を読んでいる人間の姿が生物としてのヒトの本来の姿と思うでしょう。
ヒトの一生を見ると、卵子と精子が受精して受精卵となり、これが卵割、分裂、増殖して、個体としてのヒトになります。
ウイルスの一生との類推で言えば、

宿主細胞からウイルス粒子の放出
卵子や精子といった生殖細胞の放出

ウイルス粒子
受精卵(もしくは生殖細胞)

宿主細胞でのウイルスの増殖
個体としてのヒト(体細胞が増殖)

ということになる。
もし、ウイルス粒子がウイルスとしての本来の姿なら、
ヒトとしての本来の姿は受精卵あるいは生殖細胞となります。

しかし、人間としての本来の姿はどうみても精子や卵子ではなく、
いまここに存在する多細胞生物体としての個体のはずです。
そうなると、ウイルスの本来の姿は宿主細胞の中に感染し
活動している状態ということになるのか?

って話が書いてあります。
もうちょっと複雑ですけど、おおざっぱに書くと。

まぁおもしろいなと思ったのですが、前半の話はちょっとこじつけっぽいなと、思いました。
初めっからウイルス粒子と生殖細胞を当てはめてから、周りを固めていったような議論に見えました。
なので、それ以外は付録かなと。
思いついた話と書いてある議論の順序が逆じゃないかと。

ここまで考えて、それでもウイルスが生物じゃないとするのは疑問だなと結ばれているわけですが、ちょっと違った考えが湧いてきます。

ドーキンスの利己的な遺伝子がちょこっと出てきて、それとは違うと書かれていますけど、遺伝子や粒子や世代を紡ぐ情報だというのなら、素直にゲノムといえばいいだけじゃん、という気がします。

ゲノムを主役にすれば、もっとスッキリしそうです。

ウイルスにもゲノムがあります。
ヒトにももちろんゲノムがあります。
基本的には、ウイルスだろうとヒトをはじめとした生物だろうと、
世代間を経て継承される情報はゲノムだけです。

ウイルス粒子のゲノムが空気中に浮遊し、
ウイルス粒子のゲノムが宿主に感染し、
ウイルス粒子のゲノムが宿主細胞で複製され放出されます。

ヒトのゲノムを持つ体細胞が集まって個体となり、
その一部が遺伝子を組換えるかたちで新たなゲノムを造り、
新たに作られたヒトゲノムが次の世代にひきつがれる。

で、本来の姿論は、見た目でいくと、ヒトなら人、そのアナロジーのウイルスなら感染状態、
ウイルス粒子がそれなら、ヒトへのアナロジーでは生殖細胞、となり、どうなんだろうという議論でしょうけど、
これは、見た目や生態から見るからそうなのであって、主役をゲノムに持ってくれば、また違った見方になります。

全ての生物やウイルスの本来の姿はゲノムだと。

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