やさしいバイオテクノロジー

アクセスカウンタ

zoom RSS 「脳の中の天使」を読んで

<<   作成日時 : 2013/04/25 02:10   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

ラマチャンドランの新しい本が少し前に出ています。
「脳のなかの天使」
「脳のなかの幽霊」同様、語りかけるような文体ですから、読みやすく、
賢くなった気にさせてくれます。
帯には「ロングセラーにしてベストセラー『脳のなかの幽霊』から14年、ラマチャンドランが新たに挑む脳の神秘!」とあります。
あれからもう14年も経ったのか。

脳のなかの天使
角川書店(角川グループパブリッシング)
V・S・ラマチャンドラン

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 脳のなかの天使 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



神経科学分野の本を読んでいるとかならず登場するのが
「ラマチャンドラン」と「脳のなかの幽霊」。
「脳のなかの幽霊」を読んでいなくても、それ以降の本を読んでいるだけで、「脳のなかの幽霊」がわかった気になるくらいあちこちで引用されています。

そのラマチャンドランが新しく、やさしく書き下ろすわけですから、
売れないはずがない。

「ヒトの脳」は他の生物と比べ、特殊なのは間違いない。

分子レベルで見れば、地球上の生物には共通項がたくさんあります。

DNA、その構成要素のヌクレオチド、タンパク質、その構成要素のアミノ酸、転写や翻訳のしくみ、等々。
細胞内での代謝経路にも共通項が多い。

ヒトに一番近い現存生物種はチンパンジーやボノボです。
両者にゲノムや生理学的共通性は多いわけですが、
それでもヒトの脳は特殊に見えます。

最近、「腸は第2の脳」だなどと言い出す人もいますけど、
やっぱり、本家の脳の複雑さと神秘さにはかなわない。

私のように、生物を分子の目から見る人や、霊長類学で類人猿などを研究対象にしている人などは、ヒトは他の生物の延長線上にある、その他多数の生物種の一つ、あるいは一つに過ぎない、と思いがちです。
ハッキリ割り切っているわけではないですけど。

しかし、ラマチャンドランは、ヒトの特殊性にこだわります。

その特殊性を理解するためには、ヒトだけが地球上にいきなり登場したわけではありませんから、生命誕生から現在に至るまでの地球の歴史、生物進化を無視するわけにはいかない。

この二本柱を中心に論じられています。




進化のある時期、ヒトや現存の類人猿などとの共通の祖先からヒトが進化したのは間違いない。
その途中、絶滅した生物種がたくさんあることも、多くの証拠があきらかにしています。

進化学、人類学、霊長類学、考古学、心理学、行動科学、言語学等々、多くの学問がヒトへの進化の過程やヒトの特殊性を解析してきました。なかには、もう滅んだ学問もあります。

ヒトだけが特殊だと強調しすぎると、神が自分の姿に似せてお造りになったとするあの話を信じる人達に勢いづかせるような気がしますが、もちろんそんな立場とは一線を画しています。




この分野の進歩は早い。
10年も経てば骨董品扱いです。
しかし、核となる考えは残ります。

この分野の最近の知見をまとめようとすると、それまでの研究史もひもとかないといけません(といっても、ほんの数十年)。
ラマチャンドランの先駆的な研究成果も含まれますから、この新しい本にも「脳のなかの幽霊」の話が多数、というかほとんどが出てきます。

「脳のなかの幽霊」と「脳のなかの幽霊、ふたたび」はいずれも
角川文庫からもでいます。

脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書)
角川書店
V.S. ラマチャンドラン

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 脳のなかの幽霊 (角川21世紀叢書) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ
角川書店
V・S・ラマチャンドラン

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


画像


したがって、「脳のなかの幽霊」などを読んでいれば、この本はすんなり読み進めることができますし、読んでいない人でも、一通り復習できるようにもなっています。

もちろん「脳のなかの幽霊」を絶対視しているわけではありませんから、新しい知見も踏まえて、新たな解釈も議論されています。

前2著で登場した図や写真などが今回の本にも登場します。
しかし、たんなる焼き直しではなく、バージョンアップしています。

前2著で衝撃的だったのは、「幻肢」「サヴァン」「共感覚」、あるいは最後に登場した「クオリア」です。
これらの話題をデネットやハンフリーと違ってラマチャンドランは読みやすく書いています。
○ヒトはなぜ神を信じるのか 進化心理学が解き明かす神の起源
http://yoshibero.at.webry.info/201209/article_11.html

(前2著の「解説」は読まないようがよい。せっかくの知的興奮が
 怒りに変わります)

新しい本でも「幻肢」や「共感覚」について詳しく論じられており、
さらには、「ミラーニューロン」や「美意識」も論じ、最後には大胆な推論も登場します。




いくつか面白かったトピックスを。

p86で視覚のおもしろさを述べる部分で、円に偏った影が付いた図を見て、脳がどちらかから光が当たっているように推論してみているという話で、同じ絵でも天地を逆さまにしたり、90℃傾けたりすることで、見え方が全く異なる話が出てきます。
これは、「脳のなかの幽霊」にもある有名なラマチャンドランのオリジナル研究ですが、私には本に書いてない見え方もあります。

寝転がって本を読むことが多いのですが、その時、本と頭の位置は普通に座ったままで読む場合と、同じ相対位置でそのまま横になる場合と、本は垂直に立てたまま、体(頭も)だけ横になる場合があります。
両者で文字の追いかたが異なるのは当然ですが、それ以前に、パット見た目そのものも異なります。
近視で眼鏡をかけていることとも関係するのかもしれませんが。


p117
ダーウィンのいとこで、優生学の始祖であるゴールトンが「共感覚」の項目で登場します。
優生学はいまでは厄介者扱いですけど、ゴールトンは共感覚の初期の研究者のひとりでもあり、初期のもっとも重要と思われる論文をラマチャンドランが発掘しています。
共感覚そのものはその感覚が全くない私には理解不能ですけど。
ゴールドンの著作が日本語で読めないのは惜しい。

p236
ダーウィンといえばウォレス。晩年は心霊主義に走ってしまいましたが、
彼が「言語」の起原にまで論じていたのは知らなかった。

p248
ここにもダーウィンが出てきますが、「共運動」という新しい言葉が出てきます。
おそらく言語はヒトだけが持つ特性でしょうが、どうやって生まれたのか謎が多い。その説明に新しい概念として「共運動」が登場します。

p349
クオリアの解説。
他のどんな本よりわかりやすい。
といっても、クオリアそのものが「わかる」わけでありませんけど。
一時期よく登場した日本のあの先生は、どうしているんだろう?

p381
体外離脱体験。
幽体離脱、臨死体験など、神秘的だと一般に思われている現象も、
神経科学者にかかると、あら不思議。いや不思議がなくなる。

この本には、多くの脳にまつわる臨床例が列記されています。
障害なのか病気なのか多様性なのかはともかくとして、
ほんのちょっと普段と違う、他の人と違うだけで、ここまで変わるのか、
ここまで違いが生じるのかと毎度のおとながら驚かされます。

世間には、魂なるものが存在し、死後にも生命が持続し、
不変の魂が死後も継続すると信じる人が意外なことに多い。

生前の人格を維持したまま死後も暮らせるとか、
生きている間の人格は不変であるとか。

多くの脳にまつわる臨床例のほんの一部を見るだけでも、
あるいは、昨日の自分、1分前の自分を考えるだけでも、
不変人格としての魂のようなものを考えることが滑稽なことは
簡単にわかるはずです。

人の心は簡単に壊れる。




著者による注釈も充実しています。
本文もわかりやすく書かれていますけど、
注釈だけを通しで読むのも、おもしろい。

一つだけあげるなら、最終章の16(p396の注釈)。
「私は神と一体です」というコタール症候群の例。

私は、神についてこのたぐいの発言をするとき(あるいは「妄想」という言葉を使うとき)、神は存在しないという含みをもたせたいとは思っていない。
明示していませんが、これはあきらかにドーキンスが念頭にあるのでしょう。本書にグールドはさかんに登場しますが、ドーキンスは出てきません。

一部の患者がそうした妄想を抱くという事実は、神を反証するものではない。


科学は、そうした問題について沈黙しなくてはならない。
なんか、ヴィトゲンシュタインみたい。


この本にはグールド(断続平衡論者であり『パンダの親指』などのエッセイでも著名)やクリック(「ワトソン-クリック」のクリック)が何度も登場します。
どちらももう亡くなられましたが、彼らの著作を読んでいれば、さらに理解が進むと思います。
もっとも、クリックは一風変わった行動をする人としての登場が多いですけど。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

関連リンク集

「脳の中の天使」を読んで やさしいバイオテクノロジー/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる