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<<   作成日時 : 2013/04/24 02:09   >>

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ジョルダン著、山本敏充、林昌宏訳
「人種は存在しない 人種問題と遺伝学」(中央公論新社)
2013年03月25日初版
刺激的なタイトルの本です。
内容も非常に明快で、読みやすい。
バイオインフォマティックス」という生命情報を扱う学問があります。
大学での授業の参考になりそうな本です。


人種は存在しない -人種問題と遺伝学
中央公論新社
ベルトラン・ジョルダン

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この手の本には、
集団内の多様性は集団間の多様性より大きい
ことがよく書かれます。
画像

バイオインフォマティクスの専門書なら、その持つ意味を理論的に
説明してあるわけですが、一般の人にはとっつきにくい。

ポピュラーサイエンスの場合、結論だけが示され、
なぜそう言えるのかの説明が不十分なことが多い。
せっかく興味深いテーマなのに、その根拠を知る機会が意外と少ない。

この本は入門書ですけど、上記の命題の理論的な根拠もきちんと
説明してあります。
とはいっても著者は難しくならないように大変注意深く書いていて、
結論だけ読んで、読み飛ばしてもいいよとやさしく書かれています。

説明されている部分の分量はそれ程ありませんから、頑張って読めば、
その真意がつかめるように工夫されています。




本書のタイトルは「人種は存在しない」です。
この刺激的なタイトルは日本語版だけのもので、
原著のフランス語版のタイトルを直訳すると
複数形の人類」となるそうです(訳者あとがき)。

日本語版は最近の出版ですけど、
残念ながら原著は2008年とちょっと古い。

この分野の発展は早いので、個別の話題には古くなった部分も
ありますけど(監訳者が補注している)、大きな流れに関しては
古くなっていません。つまり、論旨の展開が的を射ているわけです。

14の章からなりますが、一つ一つの章は短く、要点がまとめてあるので
重い内容なのにすんなり読めます。




人種という言葉は差別や奴隷とセットで語られることが多い。
そこで、本書では、まず人種と差別、人種と奴隷に関する
簡単な歴史(といってもヨーロッパの)から始まります。

人種という言葉は意外と新しく、17世紀に登場します。
人種は奴隷制度の歴史そのものですが、簡潔にまとめてあります。

支配する側は支配される側と同一起原なのは都合が悪いわけで、
猿や類人猿などとの関連で、何とかして両者は別種であることの
証拠が必要になります。
「優生学」まで発明し、「ユダヤ人種」差別にまで突き進むわけですが、
いかんせん、いわゆる「混血」が生まれることから、生物学的には
同一種であるという事実には逆らえません。

多くの人にとって、人種は自明で、明確に分類でき、それぞれの特性が
説明できると考えています。
ヒトとして同一種であったとしても、多様性が大きく、種が異なるくらい
別人類だと思いたがる人達もいます。

ところが、これは大きな間違いであることを、著者はいろんな証拠を
あげて解説しています。




その最大の武器は科学の力です。

ゲノム単位で遺伝情報を読み取り比較できることができるようになり、
進化学や遺伝学は大きく変化しました。
この成果を「人種問題」にも適応することができます。

それには、遺伝子や遺伝情報やゲノムや対立遺伝子といった言葉を
使って説明しないといけませんから、本書では、まず、これらの言葉の
大まかな解説が書いてあります。

そして、冒頭で述べたバイオインフォマティクスの説明が続きます。
難しければ、読み飛ばしてもいいよと、書いてあります。

ヒトゲノムの塩基配列には0.1%くらいの多様性があるわけですが、
その意味、一塩基多型、ミニサテライト、マイクロサテライトなどの
多様性をていねいに説明してあります。

さらには、祖先をたどるのに便利なミトコンドリアゲノム、Y染色体の
意味も説明してあります。

これらの遺伝情報を解析した結果を理解するには、
いくつかの統計用語も必要になります。

そこで、比較的わかりやすい統計用語を持ち出し、
結果的に冒頭で述べた

集団内の多様性は集団間の多様性より大きい

ことを明快に解説してあります。見事です。

人種があるという主張は、
人種内の多様性は人種間の多様性より小さい
という誤解から来る。




さらには、単なる一塩基多型だけでなく、
ハプロタイプ」と「コピー数多型」にまで説明が広がります。

普通なら一塩基多型で終わるところが、更に踏み込むことで、
この本の意気込みが感じられます。

ヒトゲノムの多様性は点突然変異だけでは語れませんから、
「ハプロタイプ」の概念だけでなく、「コピー数多型」の存在は無視できません。
結果的に、ヒトの多様性は0.5%にまで広がります。
とは言っても、この多様性は他の生物種内の多様性と比べても低く、
この数字は人類のゲノムレベルでの均一性の証明にもなっています。

さらには、これまで意味不明だった遺伝情報にも意味がわかりつつある所もたくさんありますから、説明できるヒトゲノムの多様性がどんどん増えています。




ここまでは、理解するのに必要な基礎の部分で、本書の半分です。

後半は、これらの知識を踏まえ、様々なトピックスで「人種は存在しない」を解説しています。

おそらく著者が一番いたかったのは、「人種ビジネス」だと思います。

一塩基多型の解析などで、自分の祖先は東アジア系かヨーロッパ系かアフリカ系か先住アメリカ系かなどを調べてくれるサービスがあるそうです。それぞれの割合まで教えてくれます。
例えば、アジア系が80%、ヨーロッパ系が20%とか。

これは、単純に白人純血を証明したいといった理由だけでなく、
日本で言うところの「逆差別」とも関係しています。

本書ではこれを「肯定的差別」「アファーマティブ・アクション」で説明しています。
日本と用語の使いかたが反対なのも面白い。

大学などの入学試験や住宅抽選などで、マイノリティーにはボーナス点が加点される法律を持つ国があり、広く知られています。
その証明にゲノム解析も利用されているそうです。

アメリカにおいては、いわゆる「黒人」と「先住アメリカ人」との間で、扱いが大きく違うわけですが、「肯定的差別」に対する考え方(積極的に利用するかどうか)について違いがあるという説明は興味深い。

もちろん、この分類に科学的な根拠はあるのかどうかという説明も、
重要なポイントです。




他にも人類が作り上げた壮大な芸術作品である「犬種」、人種と病気、人種と医薬品などのトピックスでも、「人種は存在しない」にもかかわらず、政治的、経済的、イデオロギーで「人種」が利用されていることに警鐘を鳴らしています。

人種による差別で一番深刻なのは、能力や才能との関連かもしれない。

先に、人種とスポーツに関する脳天気な本を取り上げました。
○黒人アスリートはなぜ強いのか? 金メダル遺伝子を探せ!
 人種とスポーツ
http://yoshibero.at.webry.info/201208/article_2.html

他にも類書は多数あります(そのうち取り上てます)。

本書でも知能指数や運動能力などの話題でも、「人種は存在しない」ことを明快に解説してあります。




日本だと、血液型占いが流行っていますから、4種のABO式血液型による分類は、ある意味、日本版人種とも言えるかもしれません。

同じ血液型人種内では同類意識が強く、特定の血液型人種とは相性がいいが、別の血液型人種とは相性が悪いとか、病気になりやすさにも血液型人種間で異なるとか、雇用で血液型人種間で差別したりとか、社内での配属先に利用したりとか、プロ野球で守備位置や打順に利用したりとか、幼稚園で血液型人種別クラス分けをしたりとか、軍隊で血液型人種別に配属したりとか、この本で取り上げられた人種の弊害をものの見事に血液型でも踏襲しているところが面白い。




以前、紹介したのですけど、
○黒人アスリートはなぜ強いのか? 金メダル遺伝子を探せ!
 人種とスポーツ
http://yoshibero.at.webry.info/201208/article_2.html
上野にある国立科学博物館の人類の進化のブースに、奇妙なパネルがあります。
これを見たのは、今の建物にリニューアルされた直後ですけど、
おそらくまだ展示されていると思います。
画像


この展示では科学博物館の中で科学を装っていますけど、
この本に書いてあることとは真っ向から対立しています。


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