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zoom RSS 化石の分子生物学 現在生きている全ての生物は進化の産物であり、なれの果てだ

<<   作成日時 : 2012/08/30 03:11   >>

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「化石の分子生物学」(講談社現代新書)
ブルーバックスではなく現代新書の中の分子生物学の本ですから、わかりやすく書かれています。
科学の営みは、試行錯誤の連続です。
したがって、仮説が証明されることだけが科学ではなく、むしろそうでない場合が多い。多くの科学書には、成功した例しか書かれておらず、失敗例は省かれます。
まれに失敗から新発見があったとかいう話がありますけど、これも結局は成功例です。
この科学的な営みを説明するのに、本書では失敗例を紹介するだけでなく、なぜ失敗なのか、なぜ成功なのかを徹底して論理的に解説してあります。

以前書いた下記のブログ記事で、なぜ「ヒトはチンパンジーから進化した」や「チンパンジーは進化していないが人は進化してできた」がおかしいかは詳しく書きませんでした。
○人類最大の謎? 人類の起源 プロメテウス? ヒトはチンパンジーから進化した!?
http://yoshibero.at.webry.info/201208/article_3.html
笑いとばすツボはどこなのか、何がおもしろいのかわからない人がいたかもしれませんが、その答えが今回書いてあります。




「ゲノム」の説明が第1章に1行だけ書かれています。それ以外にDNAなどの説明もあるのですが、ゲノムの説明が少なく、その後延々とゲノムの話が出てきます。
ちょっと心配です。
理系の学生向けの授業でも、ゲノムを説明するのは難しい。
いったんわかってしまえば何のことはないのですけど、理解するまでは結構ハードルが高い。
「化石の分子生物学」というタイトルですから、ゲノムぐらい知っている人しか読まないとは思うのですけど、わかっていない人が読むと、1章の途中で投げ出してしまうかもしれません。
もう少し説明があってもよかったかも。




本書は次の文章から始まります。

動物園でサル山を見ていたとき、
「このサル(ニホンザル)は、進化したら人間になるの?」
と聞かれたことがある。


ネタっぽい話ですが、この答えのひとつはすぐに書いてあります。
もうひとつの重要な点については、次のように同じ章の中程にさりげなく書いてあります(p23)。

ヒトとチンパンジーは、およそ700万年前に別々の系統に分かれたと考えられている。つまり、ヒトとチンパンジーのゲノムの1〜2%の違いは、両者が別れて別々の進化の道を歩んできた700万年のあいだに蓄積されたDNAの変化ということになる。

この話、この本の中で何度か登場します。
ここでは上記のようにさりげなく書いてあるだけですが、これは冒頭のサル山の話を理解する上で大変重要なポイントです。
ここがわからず、進化についてとんでもない理解をする人が識者や理系の大学教授の中にもたくさんいます。

○人類最大の謎? 人類の起源 プロメテウス? ヒトはチンパンジーから進化した!?
http://yoshibero.at.webry.info/201208/article_3.html
○「血液型の暗号」今年一番面白かった本(その2)
http://yoshibero.at.webry.info/200811/article_5.html

この答えに当たる分子進化は第6章で詳しく解説してあります。




物語はネアンデルタール人と現生人類との関係から始まります。
両者の見た目は似ていたと考えられていて、ネアンデルタール人が現代に蘇り、スーツを着て混み合った地下鉄に乗っていてもそうとは気がつかれないだろうとも言われています。
ネアンデルタール人と我々人類の祖先は同じ時期に同じ地域で生存していたことがあります。
では、ネアンデルタール人と現生人類は交雑したのでしょうか?
両者は別種なのか、同一種の亜種なのか?

これらの疑問を、化石として残されたネアンデルタール人のDNAと現在生きている我々人類のDNAを比較することで解き明かされています。
その答えは、、、、。


他にも絶滅したが剥製が残っている生物種の分子系統樹解析、エジプトのミイラのDNA解析、日本列島人の起源、琥珀に閉じ込められた生物のDNA、そして恐竜のDNAなどが載っています。


タイトルにある「分子」の主役はDNAです。これは遺伝情報の化学的は本体です。なので、本書のほとんどの物語はDNAを通じて語られます。

他にもよく似た情報が保存されている分子があります。
タンパク質です。
しかし、タンパク質はDNAに比べると不安定なため、化石として保存されることは稀です。しかし皆無ではありませんから、最後に化石のタンパク質に関する最新の格闘話も出てきます。


そして、「化石の分子生物学」にとってSF界での勇は「ジュラシック・パーク」でしょう。初代の小説の日本語版は1991年、初代の映画は1993年です。約20年前です。なので今の若い人は知らないでしょうが、1961年生まれの著者は熱く語っておられます。物語のメインとなる物質は「琥珀(コハク)」です。

琥珀に閉じ込められた生物からのDNA抽出は、映画の「ジュラシック・パーク」より前から続けられており、多くの成果が上がっています。今年(2012年)になってからも新種発見などのニュースがたまに載ります。


これらの解析は、初めからうまくいったわけではなく、実は間違っていたり正確さを欠いていたりしています。そういった例も取り上げ、どう考察したのか、そして次の実験のためどんな計画を立てたのか、そしてどう改善され何が解り何が不明で、さらに次の実験をどうやって計画したか、といった話が延々と出てきます。

もちろん、純粋に科学的な話ばかりでは退屈ですから(専門書ではなく新書ですから)、ドラマチックな物語もちゃんと書かれています。




本書ではDNAの構造や検体からDNAの抽出方法、PCR法、塩基配列の決定方法など、基本となる用語や技術はページを割いてきちんと説明されています。


「化石の分子生物学」の中でメインとなる仕事は化石などのサンプルからDNAを抽出することです。DNA型鑑定をやるときでも、DNAの配列情報いろいろと解析するためにはまずDNAを取ってこないといけません。
その後の配列解析は普通の研究室レベルで注意深くやれば何とかなります。
問題は解析するDNAをどうやって取ってくるかです。

犯罪捜査におけるDNA型鑑定であれば、得られたサンプルのDNA型解析自身はかなり信頼性があります。しかし解析しているDNAに汚染などがあれば解析結果は全く意味を持ちません。捜査員のDNAが混入していて、捜査員のDNA型を解析していて冤罪になった事件など、笑うに笑えません。


古生物学でのDNA抽出も同じです。ヒト以外の生物種の化石だと思って、そこからDNAを抽出したつもりでも、化石の発掘に関わった人間や地中に埋もれていたときに混入した目的生物以外のDNA混入は避けられません。

本書によれば、化石からDNAを抽出すると、よくて90%、普通は99%は目的生物以外のDNAだそうです。つまり、化石から苦労してDNA抽出しても、その化石細胞由来のDNAは数%しかないわけです。
じゃあどうやってこれはゴミ、これは目的DNAと区別するのでしょう?
なかなかおもしろいアイデアがあれこれ書いてあります。


さらに困るのは、組織からDNAを抽出するとき、DNA分解酵素が邪魔をすることです。
これは化石組織に限りません。むしろ化石の方が問題は小さいですけど。
分解酵素は酵素の中でも比較的安定ですから、DNA分解酵素やタンパク質分解酵素は比較的最後まで生き残っています。
以前、酵素が栄養になるのはおかしいよ、という話の中で、ナマ野菜や果物をジューサーでつぶすと、タンパク質分解酵素も一緒に抽出されて、欲しい酵素が死んじゃうよ、という話を書きました。
○食べた酵素は働いてくれるのか? その14  スムージーの酵素は安定なのか
http://yoshibero.at.webry.info/201208/article_9.html

同じようなことが、DNA抽出にもいえます。
DNAを得ようと思えば、一緒にDNA分解酵素もとれてきます。
このため、生きた組織や細胞からDNA抽出する場合と同じ工夫が採用されているようです。
化石DNA解析初期のころ、プロテアーゼKを使い、フェノール抽出、エタ沈(エタノール沈殿)などをやるわけですが、その工程がどんな根拠で採用されているかという話まで、懇切丁寧に書いてあります。

この辺の記述は電気泳動法やPCR法の説明でも踏襲されており、ブルーバックスより詳しいといえるでしょう。
PCR法など、ここまで書くかと思うほど詳しく解説してあります。




本物のルイ17世探しの話。
ミトコンドリアDNAの塩基配列の比較により謎解きされています。歴史的記録だけでは解明できなかった謎が、DNAの塩基配列の解析でいとも簡単に解き明かされたわけです。

その話にかこつけて、ミトコンドリア・イブの話が載っています。俗説のトンデモ説が流布している分野ですが、おもしろい視点で説明されています。

また、別のところに、核のDNAを使わずにミドコンドリアのDNAを使う理由も書かれています。
このように、この本では事実を単になぞっているだけでなく、なぜそうやるのかの理由も論理的でわかりやすく解説してあります。
これは本書全体を通じていえることで、その点、好感が持てます。
このような論理の説明をすることで、科学的な営みとはどんなことなのか、自然と理解できるようになっています。

世の中には科学的思考が欠除したまま科学を批判する「識者」や「碩学」が多いわけですが、せめてこの新書レベルの思考法は身につけてもらいたいものです。




系統やら系統樹解析などを普通に使って書いていますが、この意味もきちんと説明してあります。「チンパンジーはゴリラよりヒトに系統的に近い」とはどういう意味なのか、どんな実験結果からいえるのか、理由や原理も解説してあります。

第6章には分子進化の話が詳しく書かれています。
突然変異や分子レベルでの進化速度や集団遺伝学等々。
木村中立説を中心に、ここでも論理を大切にして、かなり突っ込んだ説明がしてあります。
どんな分野でも論争があります。論争のお陰で仮説はより確かになっていきます。その営みもまたおもしろい。


さて、冒頭のサルから人間への進化の話です。

ラマルク信奉者や創造論者にはなかなか理解してもらえないようですが、考え方はいたって簡単です。

○人類最大の謎? 人類の起源 プロメテウス? ヒトはチンパンジーから進化した!?
http://yoshibero.at.webry.info/201208/article_3.html

私はよく、現在生きている生物は全て進化のなれの果てだとよく言います。
なれの果てという表現はよくないかもしれませんが、目的があってそうなったわけではないという意味も込めています。偶然の産物だと。

そして、地球上で最初の生命が誕生してから38億年経っているのであれば、現在生きている全ての生物は38歳であり、38億年分等しく進化していることになります。
現在生きている全ての生物は進化の頂点にいます。どれかの現世種の上に別の現世種がいるわけではありません。現在生きている全ての生物は38億年分の進化の洗礼を受けています。それがなれの果ての意味です。

生きた化石という俗説のイメージから、ある生物は進化が止まっていると勘違いしたり、高等な生物と下等な生物がいると勘違いしたり、ヒトとチンパンジーが分かれてからチンパンジーは進化していないがヒトは進化したと勘違いする人が意外なことに多い。
理科系の学位をもっている人でも上記のことを平気で語っています。

「やさしいバイオテクノロジー」のコラム「進化にまつわるちょっとおかしな話」(p30)にも同じようなことが書いてあります。



 「生きている化石」という言葉も、誤解を生みやすいものです。
現在、地球上に生きているシーラカンスやゴキブリやカブトガニ
は、決して生きた化石ではありません。現在生きている生物は、
すべて進化の頂点にいるのであり、なにかの生物の原型であるこ
とはありませんし、変化しないで永久不変などということはありえ
ません。カブトガニもゴキブリもシーラカンスも、現在生きている
種と一見よく似ているような化石種が見つかりますが、同じもの
は1つとして存在しません。恐竜が栄えていたころのカブトガニ
と現在のカブトガニは、形態的にもまったく別の種です。
 現在生きているすべての生物種は、等しく38億年分の時間の
洗礼を受けているといえます。


最後の1行にある「等しく」がミソです。


このことを本書には次のような語り口で明解に書いてあります。

人間とニホンザルには、共通の祖先がいたのだ。その共通の祖先は、人間ともニホンザルとも違う生物であって、人間もニホンザルもその共通祖先から分かれてから、同じだけの時間(数千万年)をかけて、別々の種に進化してきたのだ。

同じだけの時間」というのがミソです。
どちらかの進化が止まっているわけではない。
もちろん、共通の祖先は現在生きている生物種とは別の生物種です。

人間がニホンザルの段階を通過して人間になったわけではない。それは、ニホンザルが人間の段階を通過してニホンザルになったのではないのと、まったく同じことだ。

人間はニホンザルより高等だという誤解からニホンザルから人間になったと思いがちです。この生物種の高等・下等の誤解をとかないかぎりこの話はわからないでしょう。わかれば、ここに書かれているようにその逆を考えると変だと気がつくはずです。

同じ話をもっと共通の祖先が古い生物種との比較で語られています。

細菌と人間は、両者の共通祖先から分かれて、何十億年というはるかな、しかしまったく同じ長さの時を超えて、進化してきたのだ。

ここでも「まったく同じ長さの時」がミソです。
細菌も人間も、進化の洗礼を受けた時間は同じです。

たしかに人間は、細菌より複雑な生物である。だが、人間のほうが細菌より進化しているわけではない。細菌と人間は、同じ程度に進化しているのだ。

そう高等・下等生物の分類はおかしい。「同じ程度」なのだ。

そして、現在生きている全ての生物は進化の産物であり、
進化のなれの果てなのです


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