やさしいバイオテクノロジー

アクセスカウンタ

zoom RSS ヘッケルの法則と創造論とニセ科学

<<   作成日時 : 2007/07/15 02:06   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 2 / コメント 1

ヘッケルの法則というのを高等学校の生物で習うことになっています。
個体発生は系統発生を繰り返すというあの有名な説です。発生反復説とも言います。
教科書などでは、ヘッケルの書いた胚の絵が載っています。
進化の証拠として、高等学校などの教科書には必ずと言っていいほど載っています。
結論からばっさり書いてしまえば、このヘッケルが描いた胚の絵は、かなり昔から疑惑が持たれており、検証の結果、ヘッケルによる捏造であることがわかっており、また、ヘッケル自身が捏造したことを認めていることなどから、今ではこのヘッケルの胚の絵を信じている人はいません。

ところが、なぜか日本の高等学校の教科書にはいまだに生き残っています。

このヘッケルの胚がおかしいと言うことはあちこちで指摘されています。
私の授業でも進化の解説をするときに、ヘッケルの胚の偽造、北米大陸の馬の直線的な進化の偽造、ヒトの直線的な進化の図、ダーウイン説とラマルク説を説明するときに使われるキリンの首の伝説などとセットで何度かネタにしました。
いずれも高等学校の教科書には載っていますが、捏造ないしは伝説に過ぎません。

このブログでも一度取り上げています。
・進化に関する誤解

実は、これらのネタ元は、すべてグールドのエッセイ集です。
2002年になくなられてしまいましたので、新しいエッセイが読めなくなったのは残念です。
「ウマの進化」に関しては、「がんばれカミナリ竜」、「キリンの首」に関しては、「ダ・ヴィンチの二枚貝」などに詳しく書かれています。
ヘッケルの胚に関して言えば、グールドは、大著「個体発生と系統発生」を著しています。



ところで、進化論の話をするときには必ずその対立概念として創造説が出てきます。
科学的だと称するインテリジェントデザイン説というのまであり、創造デザイン学会というのまであります。

もう一度この話を蒸し返そうと思ったのは、「進化のイコン 破綻する進化論教育 生物教科書の絵は本物か?」(コスモトゥーワン・2007年5月)という本を読んだからです。
原著は2000年と、かなり古い本ですが。

この本を読むきっかけになったのは週刊朝日(7月13日号)の書評です。
そこには、「「ヘッケルの胚の図は、すべての脊椎動物が共通の祖先をもつことの証左とされるが、すでに一世紀以上も前から生物学者たちによって捏造であることが証明されていたという」と書かれていました。
いまさらヘッケル捏造説でもあるまいし、と思って、それでも、おもしろそうなので、発注して手に入れました。
(どうでもいいけど、文字が大きく、文章の量が少ない割に高価な本:3,570円です。しかも原著の刊行は7年前の2000年と古い。半額の1,700円ぐらいでも高いと思う本です。)


本書は、創造説(インテリジェントデザイン派)の立場から進化論を攻撃するというスタンスで書かれています。

まず、監訳者の言葉。これが実におもしろい。
「誇張でなく、本書は衝撃の書だと言っていい」と言い切っています。
だいたい、このように書かれた本で衝撃の書であったためしはありません。
監訳者、あまりにも物を知らなさすぎます。
こんな程度で監訳と名乗っていいの?という解説付きです。
解説に、「すべて」とか「この本によって初めて明らかにされた」とかのいう、おもしろいウソが書かれているなど、興味深い解説です。

監訳者は「創造デザイン学会」の代表で、翻訳者はそのメンバー6人だそうです。
もったいぶって、6名の名は明かされないそうです。
所属と名前がばれると、この本を翻訳したことにより経歴にキズがつくかららしい。
本名が明かせないのなら、出版しなきゃいいのに。
この学会は、「世界平和教授アカデ ミー内」にあるらしい。


創造説の立場から進化論は間違っているという話は、古今東西を問わずたくさんあります。
その中で、進化論の証拠として使われているヘッケルの胚が捏造だから進化論は間違っているという考え方は、2000年のこのイコンの本がはじめではありません。
たとえば、日本語で読める本であれば、

南山宏著『地球史を覆す「真・創世記」 「創造論科学」が現代科学の“常識”を根底から覆す!』
(学習研究社) \903 1998年06月30日第1刷

宇佐神正海著「進化論の迷走」
(創造科学研究会) \1,500 1996年01月23日発 初版

ヒチング著、樋口広芳他訳「キリンの首 ダーウィンはどこで間違ったか」
(平凡社) \1,800 1983年07月15日初版第1刷 初版

てな本があります。
グールドやドーキンスらの一連の本も参考になりますし、ドーキンスらをウルトラダーウィニスト呼ばわりしているグループによる一連の諸作も参考になります。

これらの本の中でも、進化論を攻撃するネタのひとつとして、ヘッケルの胚の捏造説を紹介しています。
この捏造の暴露により、進化論は致命的なダメージを受けたとしています。
特に、宇佐神親子の著作では創造説の立場から進化論を攻撃する本を著しており(翻訳本も)、問題のイコンの本意あるネタはほとんど踏襲されています。


ただ、進化論の証左といわれていたもののひとつが捏造であったから、進化論は間違い、というのはちょっとひどすぎます。
このイコンの本には、進化論の証左といわれていた9個のイコンを取り上げ、それぞれ糾弾することで、進化論を攻撃し、創造論を養護しています。

しかし、進化論の証左は、この本にあげられた9個のイコンだけではありません。
分子生物学の発展とともに、進化論にかんする分子レベルでの証拠も数多く見つかっています。
たしかにヘッケルなどは捏造していました。
しかし、だからといって進化論が間違っていると即断するのは行き過ぎです。


グールドは徹底して創造論をたたいています。そこまでしなくてもというくらい、徹底して反論しています。
同時に、数多くある進化にかんする説に対して、間違いを検証し、これまた徹底してたたいています。
進化説そのものにもピンからキリまでありますし、できの悪い進化説がたくさんあります。
それをたたくのはもちろん必要です。

このグールドが数ある進化説のうちおかしな説をたたいたことは、創造説を証明するわけではなく、彼自身の「断続平衡説」という進化説を検証するためです。

同じようなことが、ドーキンスにもいえます。
進化論に関しては、ドーキンスとグールドは真っ向から対立しています。
議論も思いっきり白熱しています。
進化がどのように起こったかにかんしては徹底して反目していますが、しかし、地球上で進化が起こっていることに関しては認めているわけで、両者とも創造説にかんしては徹底して反論しています。


ところが、創造論を進化論の立場から徹底して反論しているグールドの説が、創造論者の手にかかってしまうと、なぜか創造論の証明に使われてしまいます。

ということで、何だかなぁ、という本でした。


ちなみに、このイコンの本、監訳者の解説の内容ほど変な本ではありません。
イコンの本の著者は、監訳者とは異なり、アメリカで自然科学・生物学をきちんと学んだ方で、インテリジェントデザイン運動を展開している人です。つまり、著者は、自然科学の素養のあるアメリカの創造論者です。
アメリカのと強調したのは、もちろん意味があります。

この文章を書いている間、たまたまWOWOWで次のドキュメンタリーを放送していて、ついつい見入ってしまいました。

『モーガン・スパーロックの「30デイズ」第2シリーズ 無神論者と30日間』
7月15日午前1時より50分間
(監督は、映画「スーパーサイズ・ミー」で30日間ファストフードを食べ続けるという命がけの実験をした人)

アメリカで、無神論者がキリスト教信仰心篤い家族と同居して、議論するという内容です。
信仰を持つ人は、無神論者というのは人間として生きていくことが不可能だと強く信じており、全くの排他的な考え方をもつ人たちだと言うことがよくわかる番組です。
信仰心がないなら出て行け(引っ越せ)という、無神論者に対する不当な差別がまかり通っています。
キリスト教信者は、無神論者=反キリスト教と考えている誤解も出てきます。

キリスト教信者は、聖書以外に教義や生きる規範はないと信じています。だから、その基盤がない人がどのようにして生きているのかわからないそうです。
当然のことながら、進化論も頭から否定しています。学ぶ価値もなく、学ぶことさえしません。

無神論者とキリスト教信者とのあいだで、いくら議論しても相互理解はまるっきり無理であるにもかかわらず、番組は、恐ろしく偽善的で、建前的で、本音を隠したまま無理矢理終わります。
この辺は、アメリカらしいといえばアメリカらしい。

アメリカのドル紙幣には「In God we trust」と書かれています。
神を信じる人も信じない人も、アメリカで生活するためには、このドル紙幣を使うしかありません。信仰の自由などない国です。


イコンの本の著者はそのような国で育ったわけですから、このような本を書くことにある程度理解できます。


日本人である監訳者や週刊朝日の書評を書いた人のように、本書を読んで驚きを禁じ得ない人がおり、本書を信じ切ってしまう人もいると知り、私にとっては、そのことが新鮮な驚きとして感じられました。


やさしいバイオテクノロジー 血液型や遺伝子組換え食品の真実を知る (サイエンス・アイ新書)
やさしいバイオテクノロジー 血液型や遺伝子組換え食品の真実を知る (サイエンス・アイ新書)

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(2件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
胎児進化説や奇学説など、次から次へとセンスのよくない造語が
『月刊ほんとうに怖い童話』 2008 年 7 月号 コラム 『唐沢俊一が選ぶアブナイ奇書』 の『ドグラ・マグラ』の紹介。 冒頭に掲げられた「胎児よ、胎児よ、なぜ踊る。母親の心がわかって、 恐ろしいのか」という歌をキーワードにした胎児進化説や、人間は脳で ものを考えるのではない、という奇学説など、次から次へと奇怪な話が 登場する。 ×「胎児よ、胎児よ、なぜ踊る。母親の心がわかって、 恐ろしいのか」 ○「胎児よ胎児よ何故躍る 母親の心がわかっておそろしいのか」 ...続きを見る
トンデモない一行知識の世界  - 唐沢俊...
2008/06/14 14:21
【韓国】韓国の高校教科書が「進化論」削除、創造論者の要求に屈する…韓国ばかにする米ネチズン
1 :依頼@水道水φ ★:2012/06/09(土) 14:05:15.80 ID:??? ∞教科書「進化論」削除…韓国ばかにする米ネチズン韓国の高等学校教科書が一部進化論を削除した事実を報道した米国の記事に対して、米国のネチズンら... ...続きを見る
【2ちゃんねる】痛い韓国・北朝鮮ニュース
2012/06/09 16:07

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
「創造デザイン学会」は、統一協会が母体の団体です。
創造論のクリスチャン
2008/05/13 10:56

コメントする help

ニックネーム
本 文

関連リンク集

ヘッケルの法則と創造論とニセ科学 やさしいバイオテクノロジー/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる