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zoom RSS 科学用語は意味も大切ですが読みも大切です。

<<   作成日時 : 2007/03/16 02:20   >>

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科学用語を正しく知ることは、ニセ科学に騙されない王道です。
しかし、何が正しいのか判断するのは、なかなか難しいですね。
わからなければ調べるしかないのですが、普通そんなに勉強する時間もありません。
ニセ科学を科学用語の意味から解説してきた最後に、用語の読みにかんする話題をひとつ取りあげます。

この例は、一般に言われているのが正しい、多くの人が言っているのが正しい、広辞苑に載っているのが正しい、ネットで多くのページがヒットするのが正しい、ウィキペディアに書いてあることは正しい、という概念はちょっと短絡だという教訓です。


口腔 こうくう こうこう

私は、以前、歯学部の「口腔生化学」という研究室に所属していました。
「こうくうせいかがく」と読みます。
「口腔」の読みに対して、同僚たちと議論したことがあります。
気になって手持ちの辞典を調べてみたら、「こうこう」が正しく「こうくう」は医学読みだと書いてあります。
さらに、動物学では腔は「こう」と読むとも書いてあります。
確かに、理学部で生物の講義などでは腔は「こう」でした。
高等学校の生物の教科書にも「腔」はたくさんでてきます。
たとえば、2002年検定の第一学習社の「生物I」および「生物II」には次の語がでてきます。
卵割腔 胞胚腔 囲卵腔 体腔 原体腔 真体腔 腔腸 腔腸動物 など
体腔にだけ「たいこう」とふりがなを打ったのが見つかりましたが、あとは何と読むのか書いてありませんでした。おそらくすべて「こう」でしょう。

この、腔の読みに対して、一般には次のように説明されます。
腔という字の音に「くう」はありません。しかし、医学歯学の分野ではこれを「くう」と読みます。一般や生物学用語では「こう」と読みます、と。
Webでちょっと検索するだけでも、広辞苑などの辞書を楯にとり、「こうくう」は医学読みで慣用読み、「こうこう」は正しい読みという論で書かれたものがほとんどです。

確かに国語辞典を見てみると、、、

「広辞苑第5版」
 「こうくう」=コウコウの慣用読み。医学でいう。
 「こうこう」=医学ではコウクウという。

「学研国語大辞典」
 「こうくう」=「こうこう」の慣用読み
 「こうこう」=医学では「こうくう」という

「岩波国語辞典第五版」
 「こうくう」=→こうこう
 「こうこう」=医学では「こうくう」と言う。

「大辞泉」(小学館・1995年12月1日第1版第1刷)
 「こうくう」=「こうこう(口腔)」の慣用読み。医学でいう。
 「こうこう」=医学では慣用的に「こうくう」という。

他の辞典でも似たり寄ったりです。

古い辞典だと、
「新訂大言海」(冨山房・1956年3月1日新訂版初版)
 「こうくう」=この項は無し
 「こうこう」=口腔、醫の語
とあり、医学用語としても「こうこう」読み。
時代によって読みが違うのか、この辞典だけ例外なのか?
辞典類を徹底して調べたわけではありませんので、わかりません。


「記者ハンドブック新聞用字用語集第9版」(共同通信社)によると、
 「医学関係では「口腔」(こうくう)」と読む。鼻腔(びくう)、腹腔(ふっくう)と読みを入れる。動物学関係や一般記事では「口腔(こうこう)」「腹腔(ふくこう)」と書く」

「読売新聞用字用語の手引き」(中央公論新社)によると、「記者ハンドブックと同じで」
 「医学用語は「こうくう」。動物学関係と一般記事では「こうこう」。どちらも読みをつけて使う」

「新版朝日新聞の漢字用語事典」(朝日新聞社)によると、
 「口腔」(こうこう)
 「口腔外科」(こうくうげか)

「NHK新用字用語事典第3版」によると、
 「こうこう 口腔」(固有名詞などでは「口くう」とも)〜外科」
 「こうくう」の項は無し


漢字辞典類によると、「腔」の音読みには「こう」のみで「くう」はありません。

「大漢語林」(大修館書店・1992年4月25日初版)
「腔」=コウ(カウ) qiang
  参考:医学用語では、「クウ」と読むことが多い。「口腔コウクウ」
  腔子 コウシ
  腔腸 コウチョウ

白川静「字統」(平凡社・1984年8月25日初版第1刷)
白川静「字統(普及版)」(平凡社・1994年3月10日初版第1刷)
「腔」=コウ(カウ) うつろ・からだ
  形声:声符は空(くう)。
  「満腔子(まんかうし)」の例を引用している。

白川静「字通」(平凡社・1996年10月14日初版第1刷)
「腔」=コウ(カウ) うつろ
  「満腔子」の例を引用するが読みはない。
  語系:腔 kheong、空 khong は声義が近い
  腔か【「あなかんむり」に果】 こうか 方法 / 腔口 こうこう 調子
  腔子 こうし からだ / 腔腸 こうちょう クラゲの類
  腔調 こうちょう 曲調 / 腔拍 こうはく 節奏
  胸腔/枯腔/口腔/体腔/鼻腔/腹腔/満空/羊腔


この文章を書くのに使っているATOK2007の単漢字情報でも「コウ」の読みしか書いてありません。
ATOKに「記者ハンドブック」を連動させると、先に引用した説明が表示され、口腔(こうくう)、口腔(こうこう)などのように、ふりがなを入れるように促されます。


動物学用語としては、腔の読みは「こう」で統一してあります。

「生物学辞典第4版」(岩波書店)
口腔、腹腔、体腔、などはいずれも「こう」の読みで項がたっており、それぞれ「くう」の読みもあると説明されています。
腔腸(こうちょう)など生物学でしか使わない用語には「くう」読みは示されていません。


腔の漢字にもともと「くう」という読みがないのだから、「口腔 こうくう」はおかしい。
辞書で調べているし、ネットで調べてもこれが多数意見だし、もっともらしいし。
ということで、この意見を採用することが多いと思います。

この場合、医学分野だけ特殊な読みをしています。
医学読みには特殊なものが他にもあり、たとえば、頭蓋骨は「とうがいこつ」だし、こういった特殊な医学読みを集めたサイトもあります。
当たり前のように、そのサイトではホントは口腔は「こうこう」なんだけど「こうくう」と読むと書いてあります。

「百姓読み」で説明するのもあります。とんでもない差別用語ですが。
「百姓読み」というは漢字の字面だけをみて、本来漢字の音読みにない読みをつけることで、漢字の素養のない医者が間違って読んだ(つまり百姓読みした)のが、そのまま慣用になった、ただし、医者の仲間だけで使われる業界用語だ、と説明されているのもあります。
この場合、バカな医者が、というニュアンスで語られます。

ところが、この話、そう単純でないことがわかっています。

確かに漢語としての「腔」の読みは「こう」で間違いないのでしょう。
では、医学用語としての「腔」を「くう」と読むのは本当に間違った慣用読みなのか?

この疑問に対して、徳島大学の口腔外科学(こうくうげかがく)の吉田秀夫先生が多くの古い文献を調べて、まとめておられます。

「腔の読み」
http://www1.linkclub.or.jp/~yosihide/kuu-1

「腔の読み 番外」
http://www1.linkclub.or.jp/~yosihide/kuu-2

ここでは、あえてその結論は引用しません。

この例は、一般に言われているのが正しい、多くの人が言っているのが正しい、広辞苑に載っているのが正しい、ネットで多くのページがヒットするのが正しい、ウィキペディアに書いてあることは正しい、という概念はちょっと短絡だという教訓です。



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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
「腔の読み」
http://www1.linkclub.or.jp/~yosihide/kuu-1

「腔の読み 番外」
http://www1.linkclub.or.jp/~yosihide/kuu-2

のリンクが切れているので、書いてあった内容を簡単に説明して頂けるとありがたいです。
やまざき
2010/10/17 02:36
「腔の読み」は
http://www5.ocn.ne.jp/~yosihide/kuu-1.html
「腔の読み 番外」は
http://www5.ocn.ne.jp/~yosihide/kuu-2.html
になっています。
おせっかい
2014/03/18 14:21

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