ミラクル・エンザイム説とコラーゲン 美容と健康はこれでゲットだ

このコラムは「やさしいバイオテクノロジー 血液型や遺伝子組換え食品の真実を知る」p82に載っているコラーゲンと美肌効果にかんするコラムの続きで す。また、後期末試験の解説にもなっています。
新谷弘実著「病気にならない生き方」(サンマーク出版・2005年)
新谷弘実著「病気にならない生き方2実践編」(サンマーク出版・2007年)
両著ともベストセラーになっています。おもしろいネタはたくさんありますが、両著のキーワードであるミラクル・エンザイム説を採用すれば、コラーゲンを食べたり化粧品に配合したりする意義が説明できそうです。

 かの有名なミラクル・エンザイム説(「実践編」pp74-77)によれば、エンザイム(酵素)を構成するアミノ酸は特殊な情報を保持しており、エンザイムを分解して生じたアミノ酸とエンザイム以外のタンパク質から生じたアミノ酸は異なるらしい。
 エンザイム由来のアミノ酸はエンザイム由来であることを覚えており、その情報が体内でエンザイムを作るのに役に立ち、エンザイムを多く含む食品をなるべく新鮮な状態で食べれば食べるほど、体内でのエンザイム合成が効率よくなるという。

 このように個々のアミノ酸が由来タンパク質の情報をもつとすると、コラーゲンを経口で摂取することに意味が持てるようになるかもしれません。
 ミラクル・エンザイム説では、エンザイムのアミノ酸にのみ「情報」が保存されているらしいのですが、この説をコラーゲンタンパク質に援用すると次のように説明することができます。

 コラーゲンを経口で摂取すると、コラーゲンは体内でアミノ酸にまで分解され、そのアミノ酸はコラーゲンの成分であったことを覚えています。
 その情報故に、体内でコラーゲン合成されるときにそのコラーゲン由来のアミノ酸が選択的に使われます。
 したがって、自分の体の中でコラーゲンをたくさん作って美肌効果を発揮したいときは、コラーゲンをたくさん摂るとよく、コラーゲンを多く摂るほどたくさんのコラーゲン合成が起こることになります。

 ミラクル・エンザイム説では、エンザイムの由来生物は何でもよいらしい。
 植物由来でも、動物由来でも、細菌由来でも、エンザイムであればその構成アミノ酸が特殊な情報を持っており、それを摂取したヒトはその特殊な情報を持ったアミノ酸を認識でき、ヒトのエンザイム合成の時に効率よく取り込んでくれることになります。
 コラーゲンの場合も同様であると考えると、ヒトのコラーゲンを摂取することにこだわる必要はなく、ヒト以外の動物由来のコラーゲンを食べることにより、そのコラーゲンをアミノ酸にまで分解し、その特殊な情報を持ったアミノ酸を特異的に使ってヒトのコラーゲン合成に使えることになります。

 このように、由来生物に関係なく、コラーゲンを含む食材を食べることにより、コラーゲンを効率よく多量に合成することができるようになります。

 めでたし。めでたし。

 また、コラーゲンを含む化粧品を肌に塗ることでも効果を発揮することも期待できます。コラーゲンを肌に塗っても、その分子量が大きいことから、そのままの形で肌の細胞に吸収されることはありません。
 しかし、ミラクル・エンザイム説では、肌に塗ったコラーゲンがいったん吸収できる形のアミノ酸にまで分解され、そのアミノ酸はコラーゲン用という情報を持っていることから、吸収されたアミノ酸を使って効率よくヒトのコラーゲンが再合成されることが期待できます。

 めでたし。めでたし。

 ここまでの話より、コラーゲンやコラーゲンを部分分解したコラーゲンペプチドを食べたり化粧品に配合したりするよりもっと効率的な方法があることに気がつきます。
 つまり、美肌効果をより効率よくするためには、コラーゲンをアミノ酸にまで分解し、それを摂取したり化粧品に配合したりする方がいいでしょう。
 アミノ酸であるから吸収されやすい形になっており、吸収されたアミノ酸はコラーゲン由来であることを覚えており、コラーゲン以外のタンパク質合成に使われたり、代謝使われたり(アミノ酸はタンパク質合成だけでなく、多くの代謝にも使われます)せずに、効率よくコラーゲン合成だけに使われることになります。

 これで、コラーゲン含有食品、化粧品の意義が説明できました。
 大変めでたいことですね。

 でも、まだ検証されていません。
 どうすればいいでしょうか。
 この説を検証するためには、たとえば、高級食材のコラーゲン由来のアミノ酸に特殊なラベルを入れておき、それを摂取したヒトがラベルされたアミノ酸をどのように使うか追跡すればわかるでしょう。
 ラベルされたアミノ酸が、代謝に使われたり、コラーゲン以外のタンパク質合成に使われたりせず、コラーゲン合成に特異的に使われることが検証できればよいわけです。

 誰かやりませんか?大儲けできそうです。

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 このような考え方は吟味して読むまでもなく、奇妙なものであるとわかりますよね。
健康食品や化粧品のコピーに上記に似た考えに基づく「効能」を述べて宣伝するものが、たとえばWeb検索するだけでも多数ヒットします。
 このブログの「美容と健康 コラーゲン配合サプリメントと化粧品」にトラックバックされている記事にも見受けられます。

 書籍にも同様の記述が見つかります。たとえば、、

 竹内富貴子料理、藤本大三郎監「コラーゲンたっぷりの料理 美容と健康に欠かせない」(グラフ社・2004年)には誰が書いたのかわからない次のような囲み記事があります。

「コラーゲンを食べる意味:(前略)コラーゲンもたんぱく質の一種ですから、摂取されると体内でアミノ酸に分解されます。コラーゲンを努めて食べても必ずしも美肌や関節症、骨粗鬆症に効き目があるとは限らないと思われる方がいらっしゃるかも知れません。しかし実際にコラーゲンを食べることで関節症が改善されたり、骨が丈夫になったりすること、また、動物実験で皮膚のターンオーバー(再生)が早まったという報告があります。アミノ酸をまんべんなく含む良質なたんぱく質と違って、コラーゲンを構成しているアミノ酸は種類が偏っているため、分解されても再びコラーゲンとなりやすいのかもしれません。食べたコラーゲンの効用のメカニズムについては、他の考えもあり、研究が進められています」

 ちなみに、本書のはじめに監修者の藤本大三郎先生がコラーゲンについて解説しておられます。
 コラーゲン研究の第一人者の文章だけあって、コラーゲンの構造、機能について簡潔にまとめられています。
 このなかには、当然のことながら、本書のタイトルである「コラーゲンたっぷりの料理」が「美容と健康」によいとの記述は全くありません。コラーゲンが「美容と健康」に関与していることを示唆する文章はありますが、コラーゲンを食べることにより、その効果が期待できるような記述は全くありませんこのちがいは非常に大切です

 同様の誤解に核酸パワーをウリにする核酸配合食品や化粧品にもみられます。
 このようなコピーには必ずコラーゲンや核酸の重要な機能について解説してあります。
 先の本のようにきわめて正確なものから全くのウソ解説まで玉石混交ですが、とりあえずコラーゲンや核酸は生体にとって、あるいは細胞にとって大切なものだとの解説があります。
 コピーでは、だから食べるとよい、だから化粧品として配合するとよいと続きます。

 このつながりの飛躍を理解することはとても重要です。
 繰り返します。

 コラーゲンや核酸は生体や細胞にとって重要な役割を果たしていて、なくてはならないものです。
だから、
 コラーゲンや核酸をたっぷり含んだ食品やサプリメントを摂る必要があります。

 この「だから」の前後のつながりがあるのかどうか、理解できますか?どのように飛躍しているのかわかりますか?


 コラーゲンについて少しだけ補足しておきましょう。
 ヒトの場合、30種類近くのコラーゲンの型があり、ヒトゲノムには、それぞれを合成する30種以上の遺伝子があります。
 各型のコラーゲンはそれぞれ特有の構造を取り、それぞれ分布する組織は異なります。

 コラーゲン分子は1000個ぐらいのアミノ酸からなる3分子による三重らせん構造をとっています。
 そのアミノ酸配列をみるとGly-X-Yという三個のアミノ酸の繰り返し構造をとっています。
 Xのうち100個ぐらいはプロリン、Yのうち100個ぐらいはヒドロキシプロリンです。
 ヒドロキシプロリンはプロリンから翻訳後修飾によりつくられます。
 つまり、コラーゲンのアミノ酸組成のうち、グリシンとプロリンで半分くらいを占めることになります。

 ヒドロキシル化以外に糖鎖が付くなどの翻訳後修飾も起こります。
 三重らせんになるためにはらせんになる部分の両端が必要で、三重らせんになった後、両端部分は切りとられます。
 繊維状構造を取るコラーゲンの型は、ひとつの三重らせんコラーゲンと別の三重らせんコラーゲンは4分の1ずつずれながら立体的に繊維状に束ねられ、共有結合による架橋により補強され、それぞれの構造にあった機能を発揮します。

 このように、細胞や組織によって発現するコラーゲンのタイプは異なります。
 多種類の遺伝子から多種類の型のコラーゲンが合成され、それぞれ特有の翻訳後修飾が起こり、それぞれ特有の構造を取り、それぞれ特有の機能を持ちます。

 コラーゲン遺伝子からコラーゲンが合成されても、翻訳後修飾が正しく起こらなければ、たんなるアミノ酸重合体の塊です。
 正常な機能は期待できません。
 他の生物から抽出したコラーゲンを食べたり塗ったり、あるいは、コラーゲンをゼラチンにまで完全に変性したり、あるいは、コラーゲンをペプチドにまで分解したものを食べたり塗ったりして効果が発揮できると思いますか?

 細胞がコラーゲンを合成すること、細胞の構造や細胞間の相互作用にコラーゲンが重要な訳割りを果たしていることは確かです。
 しかし、これらの機能に必要なコラーゲンは細胞が生合成し、その生合成に多くの細胞内の因子が関与し、先に述べた翻訳後修飾など複雑な条件下で管理されています。
 核酸も同様です。
 その仕組みに、食べたコラーゲンや肌に塗ったコラーゲンが関与するというのは、ミラクル・エンザイム説のようなトンデモ説を援用しない限り、現在の分子生物学の定説で考えることは難しいことがおわかりいただけたでしょうか。

 ちなみに、本質的なことですが、コラーゲン合成が効率よく促進されたからといって、美肌になるとは限りません。あしからず。

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