「疑似科学入門」(岩波新書)はニセ科学? その2 BSE

岩波新書「疑似科学入門」に対するツッコミ、第二弾。
BSE問題です。
この本の中で展開されているBSEの話題はすべてと言い切っていいくらい「もう牛を食べても安心か」(ブルーバックス文春新書)と「プリオン説はほんとうか?」(ブルーバックス)に依存しています。
ブルーバックス本に書いてあることしか出てきませんし、問題の多いブルーバックス本を批判的に読むと言うこともしていないようです。

この本の中でBSEの話はあちこちに登場します。
メインはp155の『狂牛病の「プリオン説」は正しいのか』です。2頁半ほどです。

この項の結びは、『私はこれで良いと思っている。「予防措置原則」で、疑わしい間はこれを禁じて安全が保証されるまでは待つという態度であるからだ』。

ここに、2カ所「これ」が出てきますが、2カ所とも「これ」が何を指すのかさっぱりわかりません。


どんな話が書いてあるかというと。

BSEについていろいろ書かれていますが、要するにブルーバックス本の焼き写しですから、異常プリオン原因説に疑問を提示しておられます。
異常プリオンが原因でBSEになったのか、BSEになったから異常プリオンが増加したのかわからないと。


『もし異常プリオンが病原体でないなら、今神経質に牛の脳や脊髄を取り除いていることは無意味になってしまう。状況証拠に振り回され、「日本は神経質すぎる」とアメリカから大きな非難を浴びることは確実だろう』

しかし、と続いて、上記の『私はこれで良いと思っている』につながります。


何が言いたいかわかりませんね。

これは疑似科学入門の本のはずです。
「科学が不得手とする問題」という章での具体例のはずです。
なのに、どこがどう疑似科学なのかわかりません。

『予防措置原則』が重要だと言いたいらしいことはわかります。
しかし、この例でなぜ『予防措置原則』がいえるのかがわかりません。


それどころか、どうすればいいのかもわかりません。

この『予防措置原則』の結果が『疑わしい間はこれを禁じて安全が保証されるまでは待つという態度』だとするなら、何を禁じるのがいいのかわかりません。


アメリカの牛肉が危険だから輸入を禁止しろという話?
牛肉そのものが危険だから、日本産の牛肉も禁じて食べるなという話?
BSEのプリオン原因説が間違っているというのなら、危険部位を除くことが無意味だというのなら、BSEの原因はどこにあるのかわからないので、牛は一切食べるなという話?

だとすると、BSEの原因がミルクにあるかもしれませんから、牛乳も一切飲めませんし、乳製品もすべて『禁じて安全性が保証されるまでは待つ』必要がありますよね。

牛由来の化粧品から医薬品まで多くの商品がありますから、そのなかにBSEの原因となるものが潜んでいないと否定できませんから、牛由来の商品全部禁じないといけませんよね。

これこそニセ科学ではありませんか。


別のところに(p87)、『何らかの原因があってプリオンを増やしBSEをも引きおこしているという説や、BSEになったからプリオンが増えたという説も完全には否定できない』とも言っておられます。
これは『科学の悪用・乱用』の中の一節です。

なんだかなぁ。


『完全には否定できない』って、科学なんだから当たり前ではないでしょうか。
むしろ『完全に否定できる』と言ってしまうと、それこそニセ科学になってしまいます。


p160にもおもしろいことが書いてあります。

『アメリカの農務長官が「BSEの牛を食べてクロイツフェルト=ヤコブ病に罹るリスクは交通事故に比べて圧倒的に小さいのだから、あまり神経質になるのはおかしい」と述べたことがあった』

まっとうなリスク評価だと思うのですが、著者は『何かおかしいのではないだろうか』と疑問の投げかけています。
なんでなんかなぁ?


p162では電磁波公害や受動喫煙の話題で当事者意識を問題視して、( )の中の文章ですけど

『BSEの場合は、牛肉を食べなければ気にする必要がないから当事者意識は交通事故に近い』

とも書いておられます。

なんだか意味がわかりませんね。
当事者意識もわかりませんが、それより、やっぱり一切の牛肉を食べるなというのが「予防措置原則」なのかもしれませんねぇ。


終章のところに「予防措置原則」についてまとめておられます。
「予防措置原則」というのは、p188によると、

『危ないと予想されたものについてはすぐに手を出さず、十分な吟味がなされるまで待つ』

ということだそうです。

それはそれでいいのですが、ではだれが『危ないと予想』するのですか?
だれが『十分な吟味』をするのですか?
だれがいつまで待つのか決めるのですか?

この本ではパブリックであったり科学者の考えであったりを、今考えられる最良と思える考え方であっても、それを否定し、待てと言っています。

では上記の「だれが」という問の答えはいったい誰なんでしょう?
素人の一般市民ですか?
あなたですか?


「参考文献」まで丹念に読み、あとは「あとがき」だけになったところで、
変なことが書いてありました。


p200
前回と今回のブログで取り上げてきた、著者のいうところの『科学が不得手とする問題』について、

『私の言うことを100%信用していただかない方が無難かもしれない。疑似科学と断じる私の方が疑似科学だと言われかねないと覚悟している』

だそうです。


ありゃりゃ。
だから吟味が不十分だったんですね。


失礼しましたぁ!


でも自信なさそうなのは「複雑系」の話だけのようで、遺伝子組換えやBSEの問題は複雑系とは異なるでしょうし。。。


最後に、どうでもいいことですけど、これまで私の知る限り岩波は「遺伝子組み換え」本だったんですが、本書は初めての「遺伝子組換え」本です。
おめでとうございます。

「遺伝子くみかえの法則」は「やさしいバイオテクノロジー」p180と
次のブログ以降長々と書いた記事が参考になります。
遺伝子組換え技術について03 遺伝子くみかえの法則 単行本編


「疑似科学入門」(岩波新書)はニセ科学? その1 遺伝子組換え
「疑似科学入門」(岩波新書)はニセ科学? その2 BSE

農林中央金庫の「食の安全」にかんする調査結果について
遺伝子組換え技術について14 遺伝子組換飼料不使用 この世に存在しない遺伝子組換え作物不使用
ニセ科学の生産 農林水産省監修のトンデモ本 その後
新聞報道にみられる画一性と臭い物にふた マヨネーズ値上げの記事とバイオ燃料、遺伝子組換え作物
食べたタンパク質はどうなるのか 経口摂取した機能性タンパク質の働き方

疑似科学入門 (岩波新書 新赤版 1131)

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この記事へのコメント

通りすがりのものですが
2016年12月29日 00:52
 大変たのしく読ませていただきました。
 おもわず本棚に眠っていた「疑似科学入門」をひっぱりだして、拾い拾い読みなおしてしまいました。
 それで、つたないですが感想を述べさせていただきます。

 さて、「しかし、私はこれで良いと思っている。」の箇所ですが、ここにでてくる「これ」は「日本が牛の脳や脊髄を取り除いていること」であると、わたしはとりました。なぜかというと、「しかし、~」の前の文で、日本の処置に対してアメリカから大きな非難を浴びる、という記述があって、「これで良いと思っている」というのは、日本の処置に対し、筆者が賛意をあらわしている文であると、推測されるからです。すなわち、BSEの騒動のときに日本が行った、牛の脳・骨髄の除去という対応を、支持しているように、わたしには思えます。

 また、「予防措置原則」に関して、疑わしさ怪しさをだれが判断するんだ、というyoshiさんの、指摘はその通りだなと思います。
 感想終わります。

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