朝日新聞のニセ科学講座:紙上特別講義を読む

記者さん、ニセ科学を批判的に特集した記事の最終回の総括として、これがニセ科学の特徴ですよという典型例を、読者の意見として紹介するという技法は、本当に悪趣味ではないですか?

朝日新聞大阪版の「大学+α」というコーナーに、「菊池教授のニセ科学」というのが連載されています。第1回が4月2日で、簡単なニセ科学の紹介、第2回が4月9日で、簡単なニセ科学の解説。第1回、第2回ともに記者から同じ宿題が出ています。『「ニセ科学など放っておけばいい」という意見をどう思いますか。理由も併せ、500字程度で教えてください』というものです。第3回が4月16日で、宿題の紹介およびその感想になっています。

この連載は(現時点では)asahi.comには載っていないようなので、朝日新聞を読んでいない一般の人が読むことは難しいかも。有料の朝日新聞オンラインデータベースが読める人なら、しっかり納められていますので読むことができます(記事に「電子メディアに収録します」と書いてある「電子メディア」というのはasahi.comのことではないのかも)。


さて、この連載の内容ですが、新聞というメディアの制約もあって、あまり目新しいことは書いてありませんし、きわめておとなしい内容です。したがって、記事内容に関しては、特に言及すべき点は見つかりません。
このコラムでは、記事とは別に、掲載写真と読者からの投稿について取りあげます。


まずは、掲載写真から。第1回に変な写真が一枚掲載されています。
「菊池誠教授の本棚。ニセ科学の動向を探るため、様々なジャンルの本を集めている。」とのキャプションで、18冊の本が並べられた本棚の写真(本の背表紙が映っている)が載っています。
「水は答えを知っている2」「超右脳革命」「波動の真理」「生体による原子転換」「なぜ人はニセ科学を信じるのか」「A*NO*YO 新潮45別冊」「オカルト徹底批判」「レポート常温核融合」「トンデモ本の逆襲」「トンデモUFO入門」「UFO事件の半世紀」「人類はなぜUFOと遭遇するのか」「宇宙人UFO大事典」「よくわかる宇宙の神秘とUFOの謎」「テロとUFO」「宇宙人の魂をもつ人々」「オカルトがなぜ悪い!」といった本が、向かって右からこの順に並んでいます(1冊だけ文庫本が判別不能)。

この写真を見て(リストを見て)、なんか記者の作為を感じませんか?あるいはシロウト臭さを感じませんか?本の選別が変です。
「様々なジャンル」と書いてありますが、かなり偏っています。大学教授とUFO本のミスマッチを狙ったのかも知れませんが、滑っています。この滑り方に記者自身気がついていないところが笑えます。まさに、本人の意図とは違うところで笑えるものという「トンデモ」の定義そのものですね。もちろん、菊池氏には責任がありません。
この程度の本で「様々なジャンル」なんて言ったら、菊池氏、怒るでしょう。この通り本棚に並んでいるのだとしたら、分類の下手だと公言しているようなもので、その点でも怒らないのでしょうか?

もし、撮影用に本を並べ替えて写真を撮ったのなら、これは「ヤラセ」になりませんか?新聞お得意の「演出」でしょうか。もしそうなら、ニセ科学の特集に、このようなふざけた写真は邪道だと感じました。
また、このような写真には演出があるのは当たり前だろうとの意見もあると思いますが、その意見こそニセ科学の入口になると思います。テレビの娯楽番組に科学性を求めるのがそもそも間違いだろう、との意見と同類で、放置すべきでないと感じました。


第3回に読者からの宿題の答案が紹介されています。
(私も投稿しましたが、もちろんボツです。上の写真のことを書きました)
読者の答案は2つあります。どのようなコンセプトでこの企画が考えられたのだろう、という視点で紹介されている宿題の答案を読んでみました。たぶん記者が選んだのだとおもいますが、これも思いっきり笑えます。ご丁寧にも「優」マーク付き。

一つ目は、ニセ科学に目くじら立てる必要もないのでは、楽しめばいいのでは、という内容です。
二つ目は、自分は本物の科学が書いてある本を読んでいる。そうするとニセ科学に対して免疫力が強まるので、ニセ科学になびくことは少なくなる、という内容です。「本物」を何度も強調されています。

おそらく多くの答案が提出されたと思います。その中で、なぜこの二つが選ばれたのか、記者の意図を探ってみましょう。


まず一つ目の答。朝日新聞お得意ワザの自虐なのでしょうか。
何のためにこの連載を企画したのかよぉ、と言いたくなるような答案で、企画そのものを否定する内容になっています。なぜ、連載の統括に、連載の内容を否定する投稿を紹介するのか謎です。こんな答えを望んでいるのなら、はじめから連載やらなきゃいいのに。
やっぱり朝日新聞の自分いじめが好きなのは歴史問題だけではなさそうです。
もっとも、第1回に、記者自身の個人的な自虐ネタが書いてあります。自宅の風呂に数年前からゲルマニウム入れているとか、妻が通信販売でゲルマニウム製ブレスレットを買って使っているとか、それらが何となく体にいいと思っていたとか。記者自身の自虐だけならいいのですが、一緒に笑いものになっている妻がかわいそう。

で、結局、この連載で言いたかったことは、「うさんくさい話をみんなが笑い飛ばせる社会になるといいですね。」だって。
何のためにニセ科学を特集したんだろう。


次に二つ目の答。この投稿そのものがニセ科学の典型というおもしろい内容です。でも、本人はいたってまじめのようです。だからこそ、ここでも、本人の意図とは違うところで笑えるという「トンデモ」として楽しむことができます。
記者が、わざとこのような投稿を選んだのなら悪趣味が過ぎますが、記者にそのような深い考えはないのかも知れません。

ニセ科学の特徴はたくさんあります。この連載の中で、菊池氏もいくつかの特徴を述べています。以下に述べるのは単なる特徴であって、ニセ科学の定義でも境界設定でもありませんので。念のため。よく勘違いする人がいますので。

ニセ科学の特徴に、ニセ科学は二分法を好む、というのがあります。
ニセ科学はホンモノとニセモノというように、バッサリ境界をつけて分類してしまいます。実際の科学では、このようにあっさりと二分することはほとんどの場合でできません。ニセ科学を信じる人にとっては、二分法してくれるのを好むでしょうが、科学は極力二分法を嫌います。二分法を好む人は、科学がそれに答えてくれないので、白黒はっきり答えてくれるニセ科学に走り、ニセ科学を信じやすくなるともいえます。
また、投稿者の言う「本物の科学」というのが、例えば絶対正しい科学だという意味なら、明らかに間違っています。そのような「本物の科学」はニセ科学には存在するでしょうが、科学ではありません。

投稿では「本物」をかなり強調しすぎています。これはニセ科学の二つ目の特徴である権威主義に由来します。
ニセ科学を信奉する人は、権威付けに弱いという特徴があります。学会発表程度の内容でも信じてしまうのがニセ科学の大きな特徴です。また、権威ある人に、これはホンモノ、これはニセモノというようにお墨付きをつけてくれるのを求めます。自分で考えるのは不安だから権威ある人の意見をそのまま信じる傾向があります。
この投稿者はホンモノの科学をどのようにして選別しておられるのかわかりませんが、「子供向けの科学雑誌を取り寄せ」、「心底驚き、感動」しておられると言うことからして、ちょっと怪しい本を読んでおられるのではないかと、心配になります。

さらに、3つ目のニセ科学の特徴は科学用語を間違えて、あるいは自分勝手に意味を持たせて使うというのがあります。変な用語・用法であっても、科学的であることを装います。
この投稿には「免疫力を強める」という表現があります。まさにニセ科学の特徴を地でいっています。
「免疫力」については別のコラムで取りあげました。「免疫力」という言葉は、サプリメント、岩盤浴、浄水器などの(ニセ科学)業界用語で、通常、どの業界でも、「免疫力」が何を指しているのか説明がなく、もちろんその「力」の測定方法も書いてありません。一方で、免疫にかんする膨大な知識は、多方面の実験などにより蓄積されています。その蓄積された免疫学をまとめた教科書や解説本には「免疫力」なる言葉は登場しません。存在しないので、当然ですね。
投稿者が「免疫力を強める」という用語をさらっと使っておられることから、「免疫力」を解説した本を「本物の科学」と思って読んでおられるのでは、とあらぬ心配をしてしまいます。

この短い答案の中にニセ科学の三大特徴(といっても、私が勝手に名付けているだけですが)がすべて含まれています。このように、コンパクトに(500字で)三大特徴を全部含む文章を書くのは相当の技術を要すると思うのですが、見事に表現されています。

もちろん、この答案を「優」としたのは記者さんでしょうから、投稿者にはあれこれ言われる筋合いもないでしょうし、投稿者が悪いわけでもありません。

最後に、記者さんへ、ニセ科学を批判的に特集した記事の中で、最終回の総括として、これがニセ科学の特徴ですよという典型例を、よりによって読者の意見として紹介するなんて、本当に悪趣味ではないですか?

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ついでに、「あるある」捏造事件では、出演や関与した科学者にも責任を問われました。安易な非科学的コメントは論外ですが、しっかり答えたのにオンエアでは不本意な取りあげ方だった、これは記者が悪い、ディレクターが悪い、自分はちゃんと言った、といった言い訳が氾濫しました。この連載は大丈夫なのだろうかと、これまたあらぬ心配をしてしまいました。

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