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zoom RSS 「遺伝子図鑑」と「形質」

<<   作成日時 : 2013/10/23 23:40   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

久しぶりの更新で、何から書こうかとあれこれ考えたけど、取りあえず、
比較的新しい話題から書いていきます。
つい最近、「遺伝子図鑑」という本を買いました。
遺伝研(国立遺伝学研究所)が編集した本で、
遺伝研の公式見解とみていいかもしれない。

遺伝子図鑑
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ちょっと高い本ですけど、大判のハードカバーで、
カラー印刷されています。

帯の「300点ちかくの鮮やかなイラスト」とあるように、
分かりやすい図表による解説本です。
帯には「80名以上の専門家による最先端の情報」とも書いてあって、
多くの著者による寄せ集めの解説本でもあります。
さらには「世界初のビジュアル・レファレンス」という
すごいコピーまで書いてあります。意味がよくわかりませんが。

遺伝子図鑑」というイメージから、
個々の具体的な遺伝子説明が多いのかと思ったのですけど、
その辺の記述はちょっとしかなく、細胞学から遺伝学まで幅広い解説が
メインの本です。
なので、分子細胞生物学の教科書とあまり変わりません。
そのエッセンスとも言える「図鑑」です。
ということで、遺伝子を図鑑のようにながめてみたいという人にとっては
物足りない内容です。
「Newton」なんかでよく特集をやっていますが、その別冊に似ていて、
イラスト満載の「図鑑」です。

細胞やら転写・翻訳やらの話が、見開き2ページでイラスト入りで
解説してあり、各項目で基本的には独立しているので(だから「図鑑」か?)、どこからでも読めるし、分かりやすくまとめてあります。

幅広く基礎から学びたい人でも、おそらく分かるだろうし、
帯にあるように「最先端の情報」も取り入れられていますから、
比較的新しいことを知りたい人や過去に勉強しただけという人にも
役に立つでしょう。

ただ、想定される読者層が絞りきれなかったからか、
項目ごとの難易度に大きな幅があります。
かなり基本的な話をしているかと思えば、何の説明もなしにいきなり
難解な話が出てきたりと、編集段階で調整されたんでしょうが、
ちょっと難易度の幅は気になります。
(80人も書いているんだからしかたがないのかな)。
なので、どんな読者がターゲットなのか、よくわかりません。

項目毎に2ページの説明しかありませんから、わかるところだけとか、
興味のあるところだけとかいった読み方もできますから、
パラパラと読むこともできますし、カラフルな辞典のような使い方が
できます。

ただ、専門用語の解説的な説明はほとんどありません。
最初のページから順に読んでいく、と言った読み方も、
ある程度知っている人なら可能でしょうが、そうでなければ、
いきなり専門用語がバンバン出てきてその説明が全くありませんから、
最初のページから順番に読んでわかるようにはなっていません。

まぁ、教科書じゃないんだかあ当たり前か。

世界初のビジュアル・レファレンス」という壮大な図鑑として編纂されていますから、まぁ、そういう本です。

なので、「ビジュアル・レファレンス」というのがナニモノなのか
理解することができれば、楽しめると思います。

遺伝やらゲノムやらの理解があいまいだとか、
最近よく聞くけどどんな意味かいまいちわからんとか、
そういった疑問が生じたとき、パラパラめくって該当する項目をじっくり
読む、といった参照しながら読む本だと思います。

見開きで書かれている項目は108個。
なので、パラパラめくっだけで読むべき項目はそれなりに見つかる
ようになっています。

一応、巻末には用語解説や索引があります。
用語解説の中に索引機能がついているともっとよかった。
用語解説の短い説明だけではわかりづらいですから、
そこから、本文へ飛べるとよりわかりやすいのでは。

後ろの方に生活とかかわりのある話題として品種改良の項目があり、
「遺伝子組換え作物」ってのもあります。

遺伝研が書いていますから、当然「組換え」です。
内容も「組み換え」ではありません。

○テーマ「コラム・くみかえの法則」のブログ記事
http://yoshibero.at.webry.info/theme/24de9f0512.html






表現型とは」という項目があります。
可愛らしい犬のイラストがいっぱい載っているページです。
「生物がもつ測定可能な特徴や識別できる形質のこと」
と説明してあります。
これは古典的な見方だということで、これ以外に「目に見えない形質」という項目で「形質」の話も出てきます。

ここで気になるのは「形質」という言葉です。

以下、ちょっと長くなりますが、この遺伝子図鑑の記述をネタに、
ちょっと長めの「形質」四方山話です。

表現型」を解説する項目で、それなりに定義してあるんですが、
その定義の中に「形質」が出てきます。
いろいろ探しましたけど「形質」の説明が書いてありません。
(どっかに書いてあるかもしれません。あったらすみません)
少なくとも、巻末の用語解説や索引にはのっていません。

「表現型」が「生物がもつ測定可能な特徴や識別できる形質のこと」と言われても、
この「形質」がなにかわからないと、理解できません。
日本語の語感から来る意味で理解しようとすると、おそらく間違えます。

この項目を書いている人にとっては自明なことでしょうし、
一応、高校の教科書にも「形質」が出てきます。
メンデルの法則の説明に出てくるんですが、
エンドウマメの形(丸としわ)さやの色(緑色と黄色)といった
個体の持つ特徴、ということになっています。
さらには、「遺伝する形質を特に遺伝形質という」という追加説明も
見られます。
高校の教科書には「遺伝子と形質発現」という項目まであって、
「形質」だけでなく「発現」という、これまた普通の日本語の語感だけで理解しようとすると理解しにくい言葉も出てきます。




獲得形質は遺伝しない」という話も高校の教科書にも出てくるわけですが、この「獲得形質」がなにものか、というのも、ある程度説明しないと誤解してしまいます。

一応、体細胞と生殖系列細胞がハッキリ分かれていて、
親から子へ遺伝するゲノムは減数分裂で生じた配偶子のゲノムだけで
体細胞のゲノムに生じた変化は子孫には伝えられない。
あるいは、ゲノムの遺伝情報は転写・翻訳によってタンパク質の
アミノ酸配列に伝えられるが、タンパク質のアミノ酸配列の変化が
その変化を反映するようにゲノムの遺伝情報に伝えられることはない、
といった、セントラルドグマの逆走がないというような説明が
よくなされます。

この獲得形質の「形質」がよくわからないので、いろんな面白い話も
出てきます。

たとえば、
マウスのしっぽを切っても、その子マウスにはきちんとしっぽがはえている。これを何十代もくり返してもしっぽのないマウスやしっぽの短いマウスは生まれてこないので、獲得形質は遺伝しない、いった都市伝説のようなネタもありますし、
あるいは、
割礼は3千年も行われているのに、未だに必要なんだから獲得形質は遺伝しないんだ、というこれまたネタのような話もあります。


あるいは、
「獲得形質は遺伝しない」といった場合の、「形質」として

人の記憶、
訓練で得た能力(早く走れるとか、スリーポイントシュートがうまいとか、バイオリンがうまく弾けるとか)
なんかをイメージする人もいます。

じゃあ、絶対音感はどうだろう?
鍛え上げた筋肉ならどうだろう?

これらはは「獲得形質」だろうか??

「氏か育ち」か、といった今は亡き行動学の古い命題(今でも亡霊のように出てくる)や、「エピジェネティクス」という話でもこの話題が出てきます。

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どっかの先生は、腸内細菌の遺伝子が腸細胞に移行して、
その遺伝子が遺伝することで、ABO式血液型を獲得したなんていう
大変ほほえましい話を真面目にしてくださります。




生物学のスタンダードな教科書で生物学オリンピックの標準教科書である「キャンベル生物学」の巻末にある「用語解説」によると
A「個体によって異なる観察可能な遺伝的な特徴」
B「2つ以上の検出可能な遺伝的な性質のうちの1つ」

とあります。
キャンベルの教科書は英語ですから、Aはcharacter、Bはtraitだそうで、
日本語ではどちらも「形質」ですけど、英語では区別しているらしい。

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A、Bともに「遺伝的な」という言葉が入っていますから、
日本の高校の教科書でいうところの「遺伝形質」の意味に使われているのでしょう。

ただこの「遺伝的」というのもクセ者です。
親から子への「遺伝」の話なんか? 個体の「遺伝子」の話なんか?

でも、「遺伝的」と限っているので、理解はしやすい。


ところが、
「東京化学同人 生物学辞典」によれば、

「個体がもつあまり変わることのない特性や反応および行動様式など」
「個を特徴づける形態的・生理的な性質の総称」
「染色体DNAの塩基配列によってほぼ規定される」
「必ずしもその個体で表現型として発現されるものとは限らず潜在的なもの(劣性)も含まれる」

と話がややこしくなります。
「ほぼ」ってことですから、塩基配列によらない「形質」もあるってことのようです。
つまり、遺伝形質でない形質があるとも読み取れます。
(同じ遺伝子でも異なる形質があると言いたいのかもしれません)
「行動様式」もあいまいで、遺伝形質と塩基基配列によらない形質も
一緒に定義しているんだろうか?

形質発現』の項目を見ると、
「生物の遺伝形質が、その原因となる遺伝子の働きにより現れること」
「遺伝子型が表現型として現れること」

とありますから、ここでは発現と絡んでいますから、遺伝形質のことでしょう。

ところが『獲得形質』の項目をみると、
「生物個体が、生涯で獲得した後天的な形質をいう」
「たとえば、スポーツ選手の、トレーニングによって発達した筋肉組織や、循環器系などがそれにあたる」

とあります。どうなんだろう?
「トレーニングで得た筋肉組織」は獲得形質なんだろうか?
どうやら東京化学同人では、遺伝形質中心の記述ではなく、
遺伝的な変異を伴わない(と思う)獲得形質を想定しているようです。

トレーニングによって得た筋肉組織はそれに関連する体細胞の
ゲノムの変異(塩基配列の変化)を伴わないで起こるのか、
トレーニングすることで、関連する体細胞のゲノムが変化するのか
その辺がきちんと分けておかないと混乱してしまいます。
それとも、どちらかというのは自明のことなんでしょうか?


一方、「岩波 生物学辞典」によれば、東京化学同人と違う説明です。
「生物のもつさまざまな性質のこと」
「形、色、大きさのように目に見えるものから、栄養素要求や薬剤耐性のように目に見えないものまで、さらには蛋白質の立体構造までさまざまなものが含まれる」

なにやら、ややこしいですね。
後段には3つの「もの」が出てきます。「もの」って何やねん?

さらには
「遺伝子で決まる遺伝的形質と外界の影響または器官の用不用で獲得される獲得形質に分かれる」
「遺伝的形質で、単一の遺伝子の変化により変わるものは、その遺伝子の表現型と呼ばれる」

とあるように、2つの形質を分けて書いています。
この表現だと、獲得形質は遺伝子では決まらない、遺伝子とは関係のない形質ってことに読み取れるんだけど、それでOK?
先の例でいくと、トレーニングによって得た筋肉組織は用不用で獲得された形質で、遺伝形質とは異なることになります。つまり、筋肉組織を作るのに関わっている体細胞のゲノムの変異は伴わないで獲得した形質ってことになるけど、それでOK?

ところが、『獲得形質』を見てみると、印象が異なります。
「後天性形質」
「個体がその一生の間に外界の影響、または個体において出生後に生じた体細胞突然変異などの変化によって獲得した形質」
「一般に獲得形質の遺伝といえば、体細胞に生じた変化が遺伝的となる場合を指し、」

とあります。

こちらは、かなり明解です。

『形質』のところで出てきた「獲得形質」は「外界の影響または器官の用不用で獲得」と限ってしまったからヘンだったけど、『獲得形質』で出てくる説明では、「外界の影響、または個体において出生後に生じた体細胞突然変異などの変化によって獲得」とより具体的かつ限定的に説明してくれているので、これなら分かりやすい。
体細胞に生じた突然変異に伴って生じた形質なら、これは遺伝しないと言いやすい。

ただ、「体細胞に生じた変化が遺伝的となる場合を指し」の「遺伝的」はわかりにくい。
体細胞に生じた塩基配列の変化を伴う変化なのか、
親から子への遺伝の意味なのか、わかりにくい。

「遺伝的」という言葉はよくないねぇ。

その後の記述から、ここでは前者の意味に使っているようで、
そうなると、獲得形質というのは体細胞の塩基配列の変化によって得られた新たな形質、ということになって、『形質』の項目に書いてあった説明と矛盾します。


「岩波生物学辞典」には、獲得形質論争は歴史的にも華やかでしたから、ルイセンコ説など具体的な論争がかなり詳しく書いてあります。

ついでに『形質発現』は
「遺伝子型によって決定される形質が表現型として現れてくること」

うん、まぁ明解でわかりやすいんだけど、先の「東京化学同人」版と同じで、形質や遺伝子型や表現型がなんだかわからん、という人にはさっぱりな表現ですね。

実は、冒頭の「遺伝子図鑑」も同じような表現で説明しています。




「遺伝子図鑑」の巻末に「用語解説」や「索引」がありますが、
残念ながら「形質」の項目はありません。
「表現型」もありません(「発現」はある)。

本文でも明解に書かれていませんけど、遺伝研の見解としては、
東京化学同人の使い方ではなく、岩波に近い印象です。

この手の用語を説明するとき、
○○は形質だけど、△△は形質じゃないよ、
といった、該当する説明だけでなく、該当しない間違いを正すような
説明もあると、より理解がしやすい。

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