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zoom RSS 黒人アスリートはなぜ強いのか? 金メダル遺伝子を探せ! 人種とスポーツ

<<   作成日時 : 2012/08/11 04:31   >>

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刺激的なタイトルですけど、私がつけたわけではなく、
今回登場する本のタイトルです。
ロンドンオリンピックが盛り上がっています。
オリンピックの花形の陸上競技では「伝説」も完成しようとしています。
競技によってはある国や地域の人たちがメダルを独占することから、
その地域の人たちの持つ「遺伝子」にその理由を求める人がいます。
血液型占い並みに、単に国別にメダル数をカウントしただけの
安易な話から、社会学的、科学的?に考察するものまで色々あります。
結論を言ってしまえば、「金メダル遺伝子」なんてのはありえない
ってことになりますけど、いろんな本が出ていますので、
ちょっと読んでみましょう。

画像


まず、基本から。

オリンピックの陸上男子100m決勝で、スタートラインに立った選手56人は、ここ30年すべて黒人である。彼らは他の「人種」に比べ、本当に身体能力が優れているのか
(「人種とスポーツ」帯より)

今回のロンドンオリンピックにより、「64人」になりました。
200mではひとつの国がメダルを独占しました。
決勝にはフランス人の「白人」が一人だけいて、目立っていました。
この選手は、「白人」としてはじめて100mを9秒台で走っています。
(今回は100mにエントリーしていない)
日本人で9秒台の人は、まだいません(だけどリレーは強い)。




『金メダル遺伝子を捜索せ!』

金メダル遺伝子を探せ (角川文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-07-25
善家 賢

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比較的新しいのは角川文庫で読める「金メダル遺伝子を探せ!」です。
まだ新刊です。
オリジナルの単行本が2年程前(2010年11月)に出ています。
文庫には書き下ろしの章が新たに加わっています。

タイトルは結構刺激的です。
著者はNHKの報道番組ディレクターです。
帯には「運動能力と遺伝子の関係を解き明かす!」と鼻息が荒い。

遺伝子検査と称して調べられているのは、
「ぼったくり遺伝子検査会社」並みの話しか出てきません。
いろんな遺伝子が出てきますが、遺伝子型を3種に分類しているのが
ほとんどです。
つまり、70数億人いる人間を3分類しているだけです。
3分類しかできなくても、調べる遺伝子の数を増やせばそれなりに
「当たる」こともあるかもしれませんが、まだまだ「占い」並の話しか
できていません。

能力に「環境」や「遺伝」の関与がどの程度なのか、
一卵性の双子などの研究である程度わかります。
しかし、その「遺伝」に関わっている具体的な「遺伝子」となると、
見つけるのも論じるのも難しい。

多くの場合、「能力」に関わる遺伝子は複数あると予想されますし、
その能力にプラスに働く場合だけでなくマイナスに働く遺伝子だって
あるはずです。
あるひとつの遺伝子が候補として見つかったとしても、
それだけで「能力」が語れるほど単純ではありません。

運動能力に関わっていると予想される遺伝子は
100以上見つかっているという。
それぞれどのように関わっているのかを調べるのは大変です。
おもしろい物語として語るのはもっと大変です。
したがって、あるひとつの遺伝子に注目し、それを3分類し、
何型ならどう、とか語るしかないわけです。
一般論ではおもしろくありませんから、具体的に有名選手を取り上げ、
この選手は何型で、だからどうだった、とか語るしかない。
たくさんの遺伝子が絡んでいる、とはいいっても、
やっぱり語るのはひとつの遺伝子になってしまいます。

もう一つ危険なのは、遺伝子に具体的な名前を付けることで、
その遺伝子の影響力を過大評価しがちだと言うことです。
たとえば、スプリント能力遺伝子とかジャンプ力遺伝子とか。

そう名前を付けたとたん、その遺伝子の影響力が数%しかなくても、
万能感を持ってくるから怖い。
その名前の付いた遺伝子だけで能力が語れると錯覚してしまいます。

科学者はバカではありませんから、この辺は厳密に研究し、
発表するときも慎重です。
ところが、ジャーナリストの手にかかると話が変わってしまいます。
その変わりようが楽しめるという点で、この本はおもしろい。

文庫書き下ろしの章には、「ロンドンオリンピックの見所」があります。
大胆なお話で、さて、結果はどうだったでしょう?




『黒人はなぜ足が速いのか』

黒人はなぜ足が速いのか―「走る遺伝子」の謎 (新潮選書)
新潮社
若原 正己

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先の本は、なんとか「科学」になろうともがいています。
しかし、次の本は「血液型占い」と同じノリで始まります。
「血液型占い」がなぜ「占い」の域を出ないのか。
それがわかれば、この本がもっとおもしろくなります。

陸上競技などの基本的なデータを整理し分析するのは大切です。
しかし、その方向性を間違うと、血液型占いで犯した失敗と同じ道を
歩んでしまいます。

競技記録のデータの分析から、意思や精神力だけでなく、
どうやら生まれに身体能力の秘密が隠されているはずだとの感じ、
その方向性でその後語っていきます。

先の本と同じように、関与していると思われる多くの遺伝子が登場し、
同じように3分類で解説してくれます。

思い込んだらどんな説明でも可能だということが学べる点で、
この本は有用だと思います。

どうやら競技データから身体能力には遺伝子が関与しているらしい、
それなりに説明できる遺伝子がある、
その遺伝子の頻度に地域の片寄りがある、
なぜか鎌状赤血球症の例をあげ、
遺伝子頻度の片寄りが生じるメカニズムらしいのを説明し、
それでもって「黒人はなぜ足が速いのか」の説明が可能だ
としています。




『人種とスポーツ』


人種とスポーツ - 黒人は本当に「速く」「強い」のか (中公新書)
中央公論新社
川島 浩平

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変な本が続きましたが、次は比較的新しく冷静に分析している本です。

今回のロンドンオリンピックの女子マラソンで、
日本が惨敗した理由として、ある金メダル受賞者が
「練習量が足りない」と言っておられました。
こ発言の真偽の程は定かではありませんが、
勝った人たちの理由が「練習量が多い」のはあり得ることでしょう。

そして、安易に「肌の色」に答えを求めるのは間違いだ、
という意味もあるのかもしれません。
実際、そのとおりでしょう。
そして、その線で綿密に検証されたのがこの本です。


「黒人」もいろいろです。
みんながみんな身体能力が優れているわけではありませんし、
誰もがリズム感を持っているわけでもありません。

先の2冊に欠けているのは、身体能力における歴史的・文化的な
背景の分析です。
3分類しかしていない遺伝子型云々は脇に置いて、
スポーツ界で「黒人」が歩んできた道のりを、歴史的、社会的、文化的な
側面で徹底的に資料に当たって分析しています。

今回のオリンピックなどを見ていると、
当たり前のように多くの民族が同じ競技をしていますけど、
それが可能になったのは、歴史的に見てつい最近のことです。


そうした遍歴を見てみると、
単純に身体能力の優劣を人種(ゲノム)のみに求めるのは
おかしいことに気がつきます。


もちろん、遺伝子論者も遺伝子だけで身体能力が決まると
いっているわけではありませんし、この本でも遺伝子が
全く関与していないといっているわけではありません。

ただ100mの決勝に残れるのは「黒人」だから、
その他の色の人は諦めるしかないね、
といった風潮がおかしいということです。

なぜ彼らだけが決勝に残れるのか、その理由を遺伝子以外に求め、
そして、それなりの答えも書かれています。

アスリートたちの物語を垣間見れば、なるほどなと思える話です。




『黒人アスリートはなぜ強いのか?』

黒人アスリートはなぜ強いのか?―その身体の秘密と苦闘の歴史に迫る
創元社
ジョン エンタイン

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これは古い。
「優生学」関連の本を集めているときに見つけた本で、
今回登場する本の中で唯一の翻訳本です。
原作は2000年、アメリカで出版されています。翻訳は2003年。

先の本と同じエピソードが出てきます。

「黒人アスリート」は本当に強いのか?
この本では歴史的な背景だけでなく、
遺伝子の方面からも精悍に分析を試みています。
結果的には遺伝的要因が強い、と言う本です。

アメリカで出版する本ですから、いろいろと配慮が行き届いています。

今日でこそ黒人を「天性のアスリート」と評したりすると食を失いかねないが、少し前間では、実はスポーツ界ではごく当たり前の言い方だった。(p314)

(『人種とスポーツ』は上記とそっくりなフレーズから始まります)

「黒人」とは直接関係ないですけど、スポーツ史を語るのなら、
昭和のオリンピックで活躍した東欧諸国の女性アスリートを
忘れてはいけない。
この話題についても、正面突破しています。


書き忘れましたが、「黒人」とは誰を指すのか、それぞれの本でそれぞれ定義しています。
たとえば、プロゴルファーのタイガー・ウッズは対象なのかどうか?


集団遺伝学の分野では、人種をどう扱うか、いろんな見方がありますけど、それなりに解答は得られています。
1つの解釈が、上野の国立科学博物館(地球館)の人類の進化のパネルに説明してあります。わたしは全く賛同できませんけど。
画像



○金メダルか死か、「遺伝子組み換えアスリート」の実現性
http://yoshibero.at.webry.info/201208/article_1.html

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