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zoom RSS 自己犠牲の人体実験

<<   作成日時 : 2012/08/27 23:45   >>

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人体実験はタブー視されています。
しかし、きちんと計画を立て、しかるべき専門委員会に計画書を出し、その許可の後に行われるものもあります。
臨床試験などその最たるものかもしれない。
ある人にとっては、人体実験と聞いて一番に思い出すのは、「マルタ」を使った石井部隊かもしれない。
あるいは、映画や小説で九大の事件を思い浮かべる人もいるかもしれない。
しかし、今回登場する本は、そういった犯罪系ではありません。
かといって、ゴミのような実験ではなく、病気の原因や人間の限界がわかるなど、その後の科学や技術の発展に大きく貢献した実験の話です。
画像

1冊目は、以前チラッと登場しています。少し古い。
自分自身を使って行った実験がメインです。
2冊目は新しいです。こちらも自分自身を使った実験もありますが、
それ以外のユニークな人体実験の歴史です。





自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝
紀伊國屋書店
レスリー デンディ

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科学者でなくても一般人も自分の体を使って実験している例もあるでしょう。
偶然素晴らしい結果を得るのもあるかもしれませんが、本にする物語としておもしろくするためには、ある程度知られた人やトピックスでないといけませんし、きちんと検証するためにも記録が残っていないといけません。

これらの条件にあうおもしろ自己犠牲実験の物語です。

「動物実験」が追い込まれています。
動物は痛みを感じているはずで、「動物の権利」を主張する人たちの声が大きくなり、数十年前のような動物実験はできなくなりました。
なんとか動物実験ができたとしても、それでは科学的知見が得られても人には訳に立たないこともあります。
そうなれば、人間を実験に使うしかなく、かつては奴隷や被差別人種や捕虜など、いろんな人たちが犠牲になっていました。

臨床試験は志願制ですが、実験をしたい科学者自身が被験者になることもあります。
そんな自分が被験者になった科学者の物語です。




物語は1770年代のイギリスから始まります。
「人間はどれだけの熱に耐えられるのか」

今年(2012年)の夏も暑い。場所によっては37度を超しています。
周りの温度が上がろうと、氷点下であろうと、人間の体温は一定に保たれています。尿の温度もそれ程変わりません。これはある意味凄いことです。体重の7割が水で、それを一定温度に保とうと思えば、計算してみると驚いてしまいますが、かなりのエネルギーが必要です。

生理学的な話はともかくとして、この実験では高温の部屋に入り、何度まで耐えられるのか、どのような変化が起こるか観察してます。

32度、43度、49度、さらには92度と徐々にあげていき、ついには127度まで試してしまいます。結果として「汗」や湿度の影響を思いつきます。

自分を使った実験だけでなく、その後、なぜか犬を使います。犬は汗をかきません。舌を出すだけです。その犬を低い温度からはじめ、なんと113度まで試します。
果たして結果は?
何がわかったのか?

この本のいいところは、当時の物語を紹介するだけでなく、「その後の発見」のコーナーがあることです。今ならどう解釈されているのかを知ることができます。




こんな楽しい物語が延々と続くわけです。
章立ては10章ですが、それぞれの章に楽しい実験がたくさん出てきます。

第2章は消化の実験です。同じく1770年代。
食べたものがどうやって消化、吸収されていくのか、今では小学生でも知っていることですが、当時、さっぱりわからなかった。

1. 胃や腸は機械のようなもので細かく砕いている
2. 発酵が起こっている(ぶどうの果汁がワインに変わるように)
3. 単に腐っているだけだ

いろんな仮説があったわけですが、それぞれを実証するために、あるいは得られた知見から、さまざまな実験計画を立て、実行していきます。
科学とはこのような営みなんだ、ということがわかるよい例でしょう。
仮説、実験計画、実験、考察というサイクルを繰り返すわけですが、適切に行われると、より真実に近い結論が得られます。1770年代の他に誰も実証していなかったにもかかわらず、彼の結論は見事なほど200数十年経った今でも通用します。

現代、食べた酵素が吸収してくれて機能するとか、食べたコラーゲンによってお肌がピチピチになるとか、それこそ小学生にもわかる論理がわからないトンデモな人がたくさんいますけど、この実験の行われる前の仮説よりもっと劣っているなんて、ちょっと寂しいですね。


その他、笑気ガスと麻酔、感染症や感染経路、キュリー夫妻の放射性元素の発見と放射線、危険な空気(ガス)、心臓カテーテル、減速G、隔離など。
どれも科学者自身の体当たり実験です(実は最後だけ科学者でない)。





世にも奇妙な人体実験の歴史
文藝春秋
トレヴァー・ノートン

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1冊目の話題と被っている実験が含まれますが、分量や話題も多く、ちょっとかたい内容です。

自分の体と使った体当たり実験の話は、おもしろおかしく書けますし、読んでいる方も比較的楽です。しかし、社会的な弱者などに強制的おこなわれた「人体実験」の話はそうはいきません。

近代において、医学的な医療が確立したのは、多くの人体実験の成果のおかげです。感染症や薬物・毒物の効果ばかりでなく、臓器移植も最初のころは人体実験に近いものでした。

「あとがき」には、胃炎や胃潰瘍に関与するとされるピロリ菌を発見したマーシャルの話がちらっと出てきます。

安易な人体実験はもちろん現代では禁じられていますけど、通常の医療の現場では実験的な治療も必要になります。そのため、「インフォームド・コンセント」というのが考えられたわけですけど、ピロリ菌のマーシャルは
同意(コンセント)できるほど充分に説明を受けている(インフォームド)人間は、私しかいなかったから
自己実験を行ったというエピソードが書かれています。

これをうけ、著者は
全ての研究者が、「自分ならこの実験の被験者になれるだろうか」と自問してみるべきである。答えがもし「ノー」なら、その実験が行うべきではない。
と述べています。
言い放つだけでなく、この意味についても、しっかりと書かれています。


とはいっても、こんなかたい話ばかりでは本は成り立ちませんから、ユニークな「世にも奇妙な人体実験」の話が満載です。
17章からなりますが、それぞれ独立していますから、興味のあるところから読んでいけばよい。

先の本と話題が被っているのは、心臟カテーテルとか、キュリー氏らの放射性物質の話です。
同じ話題でも切り口が異なりますから、比べて読んでみるとおもしろい。

4章に「おそるべき日本のグルメ」という節があります。
こんなタイトルを見ると、民間レベルの人体実験か? なんだろう? と思いますよね。
その食材は、確かに日本人にとっておなじみです。
1975年、人間国宝の歌舞伎役者が○○中毒で死亡した。これを受けて、○○の○を調理することが禁止された
といったトリビアもあります。
この節の最後に挿入されている笑い話は、全く笑えません。




残念ながら日本人の科学者は登場しません。

この手の話である程度有名な日本人といえば、いまや血液型占いの第一人者で、水の専門家でもあるあのカイチュウ博士でしょう。
自らカイチュウを飲み込み、そのカイチュウに名前まで付け、ユニークな仮説を唱えていた人です。
似たような話は実はこの本にも出てくるのですけど、残念ながらわがカイチュウ博士は登場しません。

地位を利用して、直接・間接を問わず、圧力をかけて無理やり被験者にさせるのは、今だとパワーハラスメントやアカデミックハラスメントになります。

やってみようと思った科学者自身が被験者になるのならまあいいわけでしょうが、同じ研究室にいる人たちにも同様の「人体実験」を強要するのは間違いなくハラスメントに該当するでしょう(近著でもさりげなく自慢しておられます)。

この本では、寄生虫を飲まされた死刑囚の話が載っています。




キュリー夫妻の発見は偉大です。その発見話を両著とも書いているわけですが、この本ではちょっと脱線しています。

どんな時代にもあやしげな商法があります。
癌の治療法の1つとして「放射線療法」というのがあるわけですが、
放射性物質が魔法の成分としてさまざまな商品に配合されるようになった。

どんな商品化というと、
ラジウム入りのチョコレートに歯磨き、、、体を寒さから守る放射能入り衣類、、、ラジウム入りのバスソルトに育毛剤、、、麻薬放射能入り強壮剤、、、放射能入り避妊ジェル などなど

今の日本の「放射能アレルギー」からいって考えられないでしょうけど、訳のわからない元素入りの商品は売られていますから、20世紀初頭の人たちを笑えない。

ほとんど誰も知らない元素「ヒアリウム」を使った補聴器
っていうのもあります。

日本だと、99.999%のゲルマニウムの入ったゲルマニウムローラとかありますね。放射性物質ではないですけど。
ゲルマニウム入り商品は、100円ショップでもいろいろ売っています。

日本ではラドンやラジウムなんかもあがめられています。
温泉だから自然にある天然だとかいって。

イギリスでは「ラドン入り炭酸水が作れる家庭用ソーダサイフォン」が売られていたそうです。
放射能を帯びた健康にいい水を作ることができ、「これこそナチュラルな健康法です」として売られていたそうです。

この話と人体実験とどう関係あるかというと、「内部放射線治療における最も完璧な達成」を謳い文句にして爆発的に売れた「高額インチキ商品」であるラジウム水が見事にその機能を発揮してくれ、売り出した詐欺師が自分の商品で死亡してしまいました。

日本でもピンポイントで見つかる「放射能」で騒いでいた2011年秋、都内で「ラジウム屋敷」が話題になりましたけど、ラジウムは医療用や夜光塗料として多用されていました。
この本では、ラジウム入り夜光塗料を恒常的に扱っていた工員たちの被害のことが書かれています。


「解説」は読まない方がいいと思います。

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この一冊でiPS細胞が全部わかる トーチウッド人類不滅の日
「この一冊でiPS細胞が全部わかる」(青春新書INTELLIGENCE) スゴイタイトルの本ですけど、そのままの内容です。 新書としては高い方ですけど、それなりに情報量も多い。 iPS細胞を理解するのに必要な基礎的な話から応用まで、広い範囲をカバーしています。 私の後期の授業の内容と被っていますので、新しいネタのところは使わせてもらいます。 ...続きを見る
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2012/08/29 23:33

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