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zoom RSS トンデモさん、またやりました クローン技術・遺伝子組換えなど

<<   作成日時 : 2012/04/04 02:32   >>

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直前のエントリーの続きです。
○ドラマ「相棒」とクローン人間
http://yoshibero.at.webry.info/201204/article_4.html
実は、同じようなことを4年前にも書いています。
つまり、進歩がないってこと。
○「疑似科学入門」(岩波新書)はニセ科学? その3 その後
http://yoshibero.at.webry.info/200805/article_6.html
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池内了著「科学と人間の不協和音」(角川Oneテーマ21・2012年01月10日発)の遺伝子組換え技術やクローン技術に触れた部分です(103-107ページ)。

a) 遺伝子に関わる人間への現在可能な応用技術として遺伝子診断(セラピー)がある。b) 人の体液、血液、組織、受精卵などを用いて、遺伝的な異常(遺伝病、たんぱく質や代謝物の異常)を解析するもので、診断の確定、新生児のスクリーニング、出生前診断、疾患発症リスクの予測などを行うのが目的である。c) 一番問題となるのは受精卵の遺伝子診断で、遺伝子の異常があれば中絶するという選択が可能になる。d) さらに、この診断と遺伝子操作を組み合わせれば、好みのタイプの子どもとすることができる。e) いわゆるデザイナー・ベビーの誕生で、自分の子どもは好(よ)い子であって欲しいという欲望を充足させるための科学になりつつあるのだ。f) これが進むと人間の品種改良に結びつき、新しいタイプの優生学を招く可能性がある。g) 優秀な遺伝子の選別と淘汰(とうた)が可能になるからだ。h) また、究極のプライバシーである遺伝子型が明らかになってしまうため、就職差別や生命保険の差別など遺伝子を理由とした人間差別につながる懸念もある。


a)で、応用技術として「遺伝子診断(セラピー)」があると言っています。
なんですが、同じ段落の最後のほうになると、違う話になっています。
それ以前に、「遺伝子診断(セラピー)」ってなんだろう?
診断(治療)ってこと?
b)を読むと、セラピーって言うのは診断のことらしい。

c)はちょっとなんだかなぁ。
「受精卵の遺伝子診断」は確かに技術的に可能です。
ただし、今のところ細胞を破壊しDNAを取り出さなければ「診断」することはできません。受精卵は1つの細胞であり、その中に各々のDNAは1分子しかない。「受精卵」の遺伝子診断」を行った時点で、細胞は消滅してしまいます。したがって、「中絶するという選択」自身あり得ない。おそらく胚から得たひとつの細胞を使った遺伝子診断のことを言いたいのでしょう。

d)からe)。同じ本の中で「科学」と「技術」の違いを詳細に述べています。
両者の違いは厳密に分類するのは不可能で境界がないとしながらも大まかな違い・特徴などをステレオタイプ的ではあるが解説しています。
その分類が単なる分類のための分類なのかどうかわかしりませんが、e)で述べている「科学」は「技術」でしょう。折角分類したにも関わらず、その用語の使い分けがなされていない。

f)の優生学については、あとにも出てきます。

g)の「選別と淘汰」の「淘汰」の使い方が気になります。
この文脈だと、「優秀な遺伝子」が残ることが「選別」で、なくなることが「淘汰」のようです。しかし、「淘汰」は本来、砂の中から砂金を選び出す意味で使われ、進化学でも「悪いものがなくなる」という意味だけで使われるわけではありません。

h)で「遺伝子型」という言葉で述べたい概念は、おそらくゲノムでしょう。
ここでいう個別の遺伝子の遺伝子型を調べるだけでもある程度の「就職差別」もあり得るかも知れませんが、その人の特性を表すものとしてはかなり限られています。
そもそもg)までの文章とh)との話は飛躍しすぎていて、たとえば、安価にゲノムシークエンスができるようになれば、など、ゲノム解析の話がないとつながらない。

a) ES細胞(胚性幹細胞)は、その遺伝子工学の究極の技術と言えるもので、受精卵からあらゆる臓器を作り出すことが可能な幹細胞を培養することができる。b) クローン羊ドリーは、受精卵を使わず、卵子の核(DNA)を取り除いて体細胞の核を挿入し、刺激を与えることで受精卵と同じ状態にして子宮に戻し育成させることに成功したものである。c) 哺乳類のクローンが実現したのだ(両生類や爬虫類においては既に実現していた)。d) その後、牛、犬、猫などにおいてもクローン作成に成功しているが、まだ霊長類のサルやヒトにおいては成功していない。e) しかし、実際の受精卵を使ったES細胞からの幹細胞作成は着々と進んでいる。f) ただ、受精卵を使うことで倫理上の問題があることや、クローン人間作成という重大な問題につながることが指摘されている。


a) のES細胞と遺伝子工学を関連づけるのには違和感が、、、
「受精卵からあらゆる臓器を作り出すことが可能な幹細胞を培養することができる」の技術のどこで遺伝子工学を使うのか不明。
そもそもこのES細胞の説明も意味不明。まずスタートを「受精卵から」としたのは、あとに述べる体細胞との対比でしょうが、ES細胞そのものを説明するのに受精卵をスタートにするのにも違和感があります。
また「あらゆる臓器を作り出すことが可能な幹細胞」も間違いではないけど、実際の技術の説明としては不適切。「臓器」を「細胞」にすれば少しはマシになります。
そもそも「ES細胞は」ではじまる文章だったのに、「培養することができる」で終わっているし。
今のところ、ES細胞から完全な臓器を作ることはできません。臓器の部分的な機能を持った細胞の塊ならできます。「可能」なのは確かですが、より確実で実際にもつくられているものとして「細胞」にするべきでしょう。
ES細胞からあらゆる臓器がすでに作られていると勘違いしている人が意外と多い。

b)。クローン羊ドリーは体細胞と除核卵の細胞融合によって作られました。
マウスなどで体細胞の核を除核卵に挿入する方法で体細胞クローンが作られている例もありますけど、哺乳動物の多くの体細胞クローンは細胞融合で作られています。少なくともドリーは細胞融合です。

c)。両生類のカエルを例にあげると、ドリー以前、カエルの体細胞から核移植により成体のクローンガエルを作ることはできなかった。オタマジャクシまではできるが、その後変態せず、カエルにはならなかった。オタマジャクシの細胞や胚から核移植をした場合は成体のクローンガエルができていた。
つまり、成体の細胞から成体を作ることはできなかった。
このことから、成体になると必要な情報が欠落するのかもと考えられていたわけです。
比較的操作が容易で(卵が大きい)、簡単には死なないカエルで繰り返し実験を行っても不可能であったことが、哺乳類の羊でいきなり実現したことに、ドリーの大きな意義があります。
ドリーは単なるクローンでも体細胞クローンでもなく、大人の羊の細胞から大人の羊に成長したことに意味があります(ドリーに生殖能力があり、子を成している)。

ここでの記述を見ると、受精卵由来の卵割胚を利用したクローンや、受精卵由来の胚を利用した核移植クローンや、体細胞を利用した核移植クローンの区別が付いているとは思えません。話があちこちに飛び、問題だといっている指摘点が見えてきません。
f)のように「倫理」を振りかざして問題を「指摘」する人は確かにいますけど、著者の意見は書かれていない。クローン人間が気持ち悪いというだけで、生命倫理的になぜダメなのか、という説明に成功している記述をみたことがない。


a) 新たに登場したのがiPS細胞(誘導多能性幹細胞)で、二〇〇六年に日本の山中博士が世界で最初に成功したことで名高い。b) 体細胞に四種類の遺伝子をレトロウイルスで挿入して培養すれば、好みの幹細胞を作ることが可能であることを示したのだ。c) この場合、受精卵を使わずに済むことから、倫理上の問題が生じない利点がある。d) 今、こぞってiPS細胞の研究が推進されている。e) ただ、レトロウイルスを使うことから、細胞のガン化の危険性が指摘されている(最近になってレトロウイルスを使わずに幹細胞作成手法が開発されている)。


b)で、「好みの幹細胞を作ることが可能」。。。ES細胞の説明と一緒で、ちょっと認識がずれていますね。
e)で、「最近」っていつのことだろう?この原稿が相当古いと好意的に解釈しておきましょう。それに、「がん化」はレトロウイルスだけの問題じゃないんだけどなぁ。

このあと、直前のエントリーで紹介した、例のトンデモに続きます。
ここまでの伏線があったからこそ、「人間の工場生産」や「人造人間」につながっていったのでしょう。




じつは、これらの記述の直前に遺伝子組換え技術についてもいちゃもんをつけています。
ただし、ほとんどは「疑似科学入門」と同じです。とりあえずコメントします。

a) 既に開発され商業化されているのは、遺伝子改変の技術を農作物に応用した遺伝子組み換え作物である。b) 除草剤耐性のダイズやナタネ、殺虫剤耐性のジャガイモやトウモロコシ、日持ちのよいトマトなどが市場に出回っている。c) 農薬が少なくて済むというのが謳(うた)い文句で、安全性の根拠は「実質等価」にある。d) 新たに組み入れた遺伝子が作り出す物質が通常の作物と同様に(人工胃液の実験で)分解されることから、実質的に同じと判断して安全だと言っているのである。e) しかし、アレルギーやガンを引き起こす物質や他の有害物質ができる可能性について、作物全体をチェックしていないことに注意すべきだろう。f) また、組み換えた除草剤耐性(殺虫剤耐性)の遺伝子が雑草に移行して除草剤(殺虫剤)が効かない雑草(虫)が広まり、生態系に大きな影響を及ぼす危険性もある。g) さらに問題であるのは、遺伝子組み換え作物の種子は不稔(ふねん)化されており、毎年種子会社から購入しなければならないことである。h) 種子会社の農業支配が貫徹するのだ。


b)には遺伝子組み換え「作物」と書かれています。
日本で販売が許可されている作物は8種類で、ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、アルファルファ、テンサイ、パパイアです。トマトは含まれていません。
したがって、トマトが「出回っている」わけではありません。
一応日本の話と限っていないので、世界の話だとしても、日持ちのよいトマトは味が悪いなどから人気がなく、早々と撤退しています。
また、ダイズやトウモロコシは「出回っている」のは確かですが、それは作物として出回っていることはなく、加工品として売られているに過ぎません。
日本では、穀物としてのトウモロコシの9割以上をアメリカからの輸入に頼っていて、8割は家畜のエサです。残りのほとんどはコーンスターチなどの加工用で、粗食用は1%以下です。
遺伝子組換え「作物」が市場に出回っているわけではありません。

c)の「実質等価」の話は典型的な誤解です。
次の説明がわかりやすいので、引用しておきます。

鎌田博「遺伝子組換え作物の食品としての安全性」(「遺伝」55(6), 46-52, 2001)
実質的同等性の概念はよく誤解されて説明されているが、遺伝子組換え食品としての安全性を考える際には、導入されたもとの作物と比較検討しても良いか否かを決定することであり、実質的に同等だからといって即安全であると結論するものではない。実質的に同等と判断された後、導入遺伝子に由来するタンパク質やその性質・機能、得られた遺伝子組換え体のさまざまな特性等について、表2(引用者注:授業で配布した資料に同等のリストがある)に示すような非常に多くの項目についてもとの植物とも比較検討し、最終的な判断を下すものであり、比較検討した結果、食品としては認可されない場合もある。


実質的同等性は、安全性の評価をしてもよいかどうかを判断する入口の考え方であり、比較して同等だから安全だというわけではありません。この入口をクリアしてはじめて安全性評価がはじまり、実際に多くの安全性の試験や調査等が行われています。
著者の言い分は何も知らない反対派の人達と全く同じですが、もう少し実際の評価方法を調べてから書かないと、とんでもない恥をかくことになります

e)で「可能性」と述べていますが、これは著者の得意技であり、読者を脅す効果はあっても科学的には全く意味がありません。「作物全体のチェック」についてもどのような方法をとれば満足するのか不明。万一その様な方法があるのなら、逆に教えて欲しいものです。

f)もちまたに流布するホラー話そのもの。
組換えに使った遺伝子が他の植物や昆虫などに移行するといっているが、どのようなルートを通って移行すると考えているのでしょうか?
単に遺伝子組換え作物から遺伝子が飛び出して他の植物や昆虫に移るというのであれば、これは単なるSFの世界なので、無視するしかない。まともに批判するだけムダでしょう。
交雑によって広まるというのなら、遺伝子組換え作物のゲノムとその辺にはえている雑草のゲノムとが一緒になり、新しい生物が誕生することになります。確かにこの場合、組換えに使った遺伝子が出て行っているように見えますが、全く新しい生物が誕生することになり、遺伝子組換え作物云々などどうでも良くなるという重大な問題に発展するはずです。
遺伝子組換え作物だけが交雑しやすいということは考えにくいことから、作物を栽培している周辺ではこのような化け物が次々と誕生していると著者は考えていることになります。

さらに恐ろしいのは、「虫」と書いてあることで、これだと、植物と虫が交雑しさらにワケのわからない新生物が誕生することを予想しておられることになって、この著者の想像力の豊かさに舌を巻くしかありません。
SFでもここまでリアリティを無視したのを書く人はいないでしょう。
そんなワケで、著者が心配している「生態系に大きな影響を及ぼす危険性」というのは、SF顔負けの想像力の賜物ということになります。

生態系への影響を心配したいのなら、人間が食べるためだけに栽培している作物や飼育している家畜などによって思いっきり乱れまくっている生態系を心配する方が先でしょう。

ちなみに、除草剤耐性の植物や殺虫剤耐性の昆虫は色々誕生していますが、これは除草剤や殺虫剤を使うことで生まれているのであって、遺伝子組換え技術やそれに使った遺伝子そのものとは直接関係ありません。
遺伝子組換え作物を栽培していない周辺でも除草剤耐性植物や殺虫剤耐性昆虫が多数報告されています。

g)の不稔化の話。書きながらヘンだと感じなかったのであろうか?
不稔化しているのであれば、交雑も心配しなくてもいいことになりそうですけど。
一方で種の異なる植物同士、植物と昆虫の交雑というホラー話を心配しておきながら、他方で遺伝子組換え作物に種ができない仕組みを組み込むことにケチを付ける、意味不明の論理です。
生態系を心配したいのであれば、不稔化は歓迎してもいいはずです。
ちなみに、不稔化された遺伝子組換え品種は認可されたものに含まれていません。開発にも手間と資金がかかることなどから、実用化されておらず、ほとんど撤退しています。

遺伝子組換え作物に限らず、ほとんどの農作物の種子はF1です。これは純系同士を掛け合わせた雑種第一代で、多くの遺伝子型がヘテロなりそろうことから、クローンのように形や味がそろった作物ができます。
F1同士の雑種第二代の遺伝子型は多様になることから、ふぞろいな作物になります。
このことから、農家の人達はF1品種を毎年購入することになり、純系とその雑種を開発したところは、毎年種が売れることになります。
著者が「更に問題であるのは」と書いてある「問題」は遺伝子組換え作物に限った話ではありません。それ以前になんでそれが「問題」なのかも不明。


a) 科学の商業化の一例であるが、おそらく完全に安全を証明することも、生態系への悪影響はないと示すことも不可能だろう。b) 安全性の証明のためには、あらゆる年齢層、あらゆる体質の人について人体実験しなければならないし、生態系についても、あらゆる状況を設定して、長年にわたって調べなければならないからだ。c) そのような未来について不確実なこととしかわからない場合、予防原則を適用するしかない。d) 安全性が保証できない場合には、その使用を差し控えるという原則である。e) 遺伝子組み換え作物については二〇〇〇年にカルタヘナ議定書(生物多様性条約)で予防原則が宣言されたが、輸出入に関する取り決めに終始し、実際には拡大する一方である。f) 限界を知る科学者は、予防原則の精神を守り、もっと主張しなければならないのではないだろうか。


著者がお得意の「予防原則」です。
「予防措置原則」ともいってます。その使い分けは本書や類書「疑似科学入門」(岩波新書)などを読んでも不明。

ここでの記述はいまさら解説不要でしょう。a)が不可能なのは当たり前です。不可能なことをやらなきゃダメって、無茶な話です。
まぁ、新しい技術は使うなってことなんでしょう。とほほ。

カルタヘナ議定書云々も意味不明。もしかしたら、名古屋で開かれた生物多様性条約に関する不毛だった国際会議のことを言いたいのかも知れません。それなら、関係がない。結局科学者が何を「主張しなければならない」のかも不明。

a) EU諸国では、あらゆる食物・飼料について遺伝子組み換えの有無の表示義務を課したが、アメリカでは野放しで有機農産物として認めないと規定しているだけである。b) 日本においては、使用、不分別、不使用の三つのタイプの表示が義務付けられたが、豆腐やポップコーンなどの主要材料として使っているものにだけ限定している。c) そのため、遺伝子組み換え作物の多くは表示されておらず、実際上消費者は大量に摂取している状況にある。d) 日本の法制度のおかしさがここに現れている。


先にも述べたように、遺伝子組換え作物自身をそのまま食べているわけではありません。
c)でも「作物」が出てきますが、どうやららこの人は「食品」のことをぜんぶ「作物」と言っているらしい。
細かいことではありますが、「作物」なら表示する義務がります。著者が言う「作物」の意味がはっきりしませんが、どうやらDNAやタンパク質を含まない加工品も「作物」とよんでいるらしい。確かにその様な加工品を「摂取」していますけど、それなら、ここで述べている「法制度のおかしさ」にはつながりません。
「実際上大量に摂取」しているのは家畜のエサとして使われ肉や牛乳や卵などを通して間接的に「摂取」するか、異性化糖のようにDNAでもタンパク質でもない単なる糖の形で「摂取」しているものです。これを作物として摂取しているかのごとき書くのは詐欺でしょう。

日本の法律で表示義務がないのはDNAやタンパク質が含まれておらず、表示が不正であっても不正であると検査できないものに限られています。
検査方法が発展し、これまで検出できなかったものが検出できるようになれば、義務表示に切り替えられています。
このように合理的で科学的な制度です。著者のいうような意味不明な「作物」であれば、「おかしさ」につながるかも知れませんが、実際には上記のように「おかしさ」は見当たりません。

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