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zoom RSS 身体の病と心理臨床 遺伝子の次元から考える?? その1

<<   作成日時 : 2009/06/06 04:31   >>

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(前期中間試験問題のネタです)
(試験が終わりましたのでアップします)
○哲学的生命論は科学的生命論と合致する??「ゲノムと遺伝子」
http://yoshibero.at.webry.info/200905/article_20.html
の続きです。
今回紹介する本は高価です。
「遺伝子の次元から考える」という言葉に引っかかって
注文で買いました。

伊藤良子、角野善宏、大山泰宏編
身体の病と心理臨床 遺伝子の次元から考える
京大心理臨床シリーズ
創元社
\3,990
2009年03月20日第1版第1刷




「京大心理臨床シリーズ」第8巻です。
心理臨床学は京都大学が中心になって発展していったらしい。
心理臨床といえば京都大学なんだそうです。
臨床心理士にまつわる話は、
たとえば、松岡圭祐氏の小説「千里眼」シリーズに出てきます。
臨床心理士と精神科医の対立もよく目にします。
「カウンセリング」と「治療」の違いがあるにせよ、
何かと反目しあっているらしい。


そんななかで、本書「はじめに」にあるように、
心理臨床は、心理的な要因のみのアプローチする」だけでなく、
遺伝子」や「生物学的次元」も重要で多元的にとらえる必要性を
説いておられます。
遺伝子の次元から考える心と身体」の論考の重要性を説き、
臨床的思索から生物学的な次元まで、あるいは、具体から抽象へと螺旋階段を上るように読んでいただきたい
(p4)の言葉につられ、ざっと読んでみました。
」に焦点を当てて語られている論文はたくさんあります。
残念ながら、「遺伝子」に焦点を当てて語られているのは
第4章ぐらいしかありません。
第3章までに「遺伝子」らしいのが時折出てきます。
ところが、残念なことに、とても「遺伝子」と呼べるものは出てきません。

ということで、本書の副題
遺伝子の次元から考える」はフェイクらしい。


気を取り直して、第4章よ読んでみると、
いきなり「う〜ん」です。
筆者達が「遺伝子」に出会った「衝撃」は何となくわかるのですが、
それと心理臨床とどうかかわるのか、結局わかりませんでした。


ある著者は「生物学ではない心理学の遺伝に対する専門性はある
ということで、その専門性を説いておられます。
生物学ではない」というからには、いちおう「生物学」の立場も
正確に押さえておく必要があるはずです。




第4章  2遺伝と神話

p316
 DNAでは三つごとの塩基配列の順序に対応して、合成されるアミノ酸の種類が決まっており、このアミノ酸が繋がって、さまざまな種類のタンパク質が作られる。DNAの三つの塩基配列とアミノ酸合成との間にはRNA(正確にはメッセンジャーRNAと呼ばれる)が関わるが、DNAの三つの塩基配列ごとに転写してつくられるRNAの三つの塩基配列はコドンと呼ばれる。コドンの配列と作られるアミノ酸の種類の対応は、生物の種によって異なるわけではなく、ほぼすべての生物で共通している。つまり、DNAは種を超えて生物全体が共有するある種の符号として機能している。
 このことからDNAやRNAをめぐる化学反応は言葉にたとえられてきた。それは、メッセンジャーRNAをもとにアミノ酸が作られ、さらにタンパク質が合成される過程を「翻訳」と呼ぶ、生物学の名づけにも現れている。





この短い文章で、いくつ間違いを指摘できますか?
数え方にもよりますが、5カ所ぐらいは簡単に見つかると思います。

最後の文章にもあるように「翻訳」に焦点を当て、
分子生物学のセントラルドグマを解説しようとしています。
しかし、一読してわかるように、なんのとことやらわかりません。

なぜそうなったかの理由は大きく二つあり、
一つ目は基本用語の理解不足
もう一つは「転写」と「翻訳」をごちゃ混ぜに説明している点です。

一つ目の理由はどうしようもありません。
二つ目の理由は何とか改善できます。分けて説明すればいいだけです。

個別に見るとよくわかると思いますので、
チェックしていきましょう。




DNAでは

引用文全体はいちおう遺伝子の話をしているようです。
ところが、この部分に限らず「遺伝」や「遺伝子」の言葉は
全く出てきません。
「遺伝子」を全く使わずに遺伝子を説明していることから、
この論文全体の違和感が生じているのだと思います。
(まして「ゲノム」も全く出てきません)

この引用文は「DNAでは」ではじまります。
しかし、その後の説明からわかるように、遺伝子の話をしているようです。

DNAという化学物質と言語とのアナロジーを解説しようとしているのは
何となくわかるのですが、
ここはやはりDNAではなく遺伝子で解説して欲しい。

DNAにしめる遺伝子領域はわずかです。
DNAには遺伝子領域と遺伝子間領域があり、
転写が行われるのは遺伝子領域です。
ここで議論されているのはヒトのDNAのうち、
そのわずかな領域の話です。



DNAでは三つごとの塩基配列の順序に対応して、合成されるアミノ酸の種類が決まっており

かつて、
○コドンがアミノ酸を合成するわけではありません
http://yoshibero.at.webry.info/200611/article_2.html
というエントリーを書きました。

素人の方ですし、フィクションですから間違っていることは
どうでもいいのですが、
それでも学生の一部も同じ間違いをすることがあるので、
試験問題の題材にし、上のエントリーを書きました。
その続編:
○分子生物学の「転写」と「翻訳」の理解
http://yoshibero.at.webry.info/200903/article_25.html


同じような間違いを犯している人が、この論文集に出てくるとは。

DNAの三つの塩基配列ごとに転写してつくられるRNAの三つの塩基配列はコドンと呼ばれる

メッセンジャーRNAをもとにアミノ酸が作られ、さらにタンパク質が合成される過程を「翻訳」と呼ぶ

という記述からもわかるように、転写と翻訳システムを
完全に誤解しておられるようです。


言うまでもないことですが、
転写・翻訳時にアミノ酸が合成されるわけではありません。
翻訳に使われるアミノ酸はtRNAに結合し、細胞質に存在しています。
リボソーム上にあるmRNAのコドンに対応するtRNAのアンチコドンが
アニーリングすることで、特異的な翻訳が進行します。
このtRNA上のアミノ酸が順次ペプチド結合することで
タンパク質が合成されます。

アミノ酸合成しながらタンパク質合成しようとすると、
とても時間がかかってしまいます。

冒頭の「DNA」を<遺伝子>に置き換え、
「合成されるアミノ酸」を単に<アミノ酸>にすることで、
ちょっとすっきりします。




DNAの三つの塩基配列とアミノ酸合成との間にはRNA(正確にはメッセンジャーRNAと呼ばれる)が関わるが

DNAの三つの」ではじまると、なんのことやらわかりません。
ここは <遺伝子>に置き換えるのがいいでしょう。

アミノ酸合成」も上記の理由で
<タンパク質合成>に置き換えるといいでしょう。

(正確にはメッセンジャーRNAと呼ばれる)」で
何を「正確に」あらわそうとしているのかわかりませんが、
アミノ酸を運ぶのはtRNAで、コドンはmRNAにありますので、
そのあとの文章との兼ね合いで
 <メッセンジャーRNAとトランスファーRNA>とトランスファーRNAを
追加するのがいいと思います。
 



DNAの三つの塩基配列ごとに転写してつくられるRNAの三つの塩基配列はコドンと呼ばれる
 <DNAの遺伝子領域を鋳型として合成されるRNAはmRNAと呼ばれる>
ですっきりするのではないでしょうか。

この文章も「DNA」ではじまります。
ここも「遺伝子」という言葉を使った方がいいでしょう。

転写はDNA上の転写開始領域付近でコントロールされており、
その調節にしたがってDNAを鋳型としてRNAが合成されます。
転写、すなわちRNA合成過程はコドンと関係なしに進行します。

三つの塩基配列ごとに転写」はしません。
コドンが関与するのは翻訳過程です。
転写と翻訳がこんがらがっていますね。




コドンの配列と作られるアミノ酸の種類の対応は
<コドンと対応するアミノ酸の種類は>
ですっきりすると思います。

細かいことですが、普通「コドンの配列」という表現は
使いません。
コドンには配列の意味もありますので、
これでは配列の配列になってしまいます。

作られるアミノ酸」は上記の通り。
翻訳過程でアミノ酸が合成されるわけではありません。




生物の種によって異なるわけではなく、ほぼすべての生物で共通している
前段をカットして<ほぼすべての生物で共通している>だけで
いいと思います。

この部分は間違っているというわけではありません。
コドン表の例外はいくつかあります。
一部の原生生物の核や核様体のゲノムの一部のコドン、
多くの生物種のミトコンドリアの一部のコドンで例外が見つかっています。

その点で後段の説明に誤りはないのですが、
前段と後段がつながりません。




メッセンジャーRNAをもとにアミノ酸が作られ、さらにタンパク質が合成される過程を「翻訳」と呼ぶ
<mRNAのコドンに対応したアミノ酸が順次結合することでタンパク質が合成される過程を「翻訳」と呼ぶ>
でどうでしょうか。

アミノ酸が作られ、さらに」とあるように、
アミノ酸が合成され、さらにタンパク質が合成されると
勘違いしておられます。
ここの「さらに」でこの誤解が決定的ですね。




著者は「転写」と「翻訳」を一気に説明しようとしたため、
このような間違いを含む文章になったと思われます。

「転写」は核内で、「翻訳」細胞質のリボソーム上でおこることから
わかるように、独立した全く別の過程です。

最終的に言語と生物学の「翻訳」のアナロジーを説明しようされています。
その説明にいきなり「翻訳」の話をし始めるのではなく、
「転写」と「翻訳」を分けで説明するとことで、
誤解のない文章になったと思います。

もちろん、基本用語は正確に使うのは言うまでもありません。




この引用文の後、
転写・翻訳システムが生物全体に普遍的であることから、
また、生物学で「翻訳」という言葉を使用していることから、
この遺伝の仕組みと人間の使う言葉との関連が語られています。

さらに、
組換えDNA実験によって、大腸菌にヒトの遺伝子を発現させることを
(これほどすっきりした表現は使っておられませんが)
人間の使う言語で語ろうとしています。

しかし、その議論は私の理解力が悪いからかサッパリわかりません。

正しい生物学の基盤の上での議論、
例えば、池田清彦氏の「構造主義生物学」なら、
その思想はともかくとして、生物学の基盤がしっかりしていますから、
安心して読むことができます。




今やDNAの語る生命の物語は神話として、世界中で支持されている。それは、遺伝子工学というかたちで、ヒトに新しい生き方を与えている

なんだかなぁ。よくわかりません。
なぜ「神話」?
「神話」の解説が続くのですが、何度読んでもわかりませんでした。
細かいところですが、
「人」でなくなんで「ヒト」? 「人」と「ヒト」はどう使い分けているの?



こういう人が
遺伝カウンセリングにおいて遺伝情報を扱っている
そうです。
カウンセリングを受けるのがちょっと心配です。
やっぱり精神科医と心理臨床家とはかなり違うんでしょうか?



「はじめに」で編者が
筆者は、遺伝医療の場からの依頼で、遺伝という事象にかかわることになったが、そこには、医学の観点を遙かに超える深くて広大な領野があった。不思議にもそれは、心理臨床と見事に重なる領域であった
と述べています。

心理臨床の領域というのがどんなものか、私は詳しく知っているわけではありません。
この本や他の関連本を読む限り、哲学的考察をこねくり回しているようにしか見えません。
そんな中で、「遺伝」に出会って、まさに「衝撃」を受けるという話は、
確かに理解できます。

しかし、そうであるなら、「遺伝学」や「生物学」をもう少し丁寧に
扱っていただければなと思いました。


(日野原氏の輪廻転生観との続きということでこの本を引用しました。
まだ生まれ変わりの話は出てきていません。
少し長くなってしまいましたので、その話は次回に)



引用だけしておきます。
(p319から)
 DNAの示す神話は<私>という概念すら変えてしまう。あらゆる生物は死ぬと物質に戻る。死んでしまっても物質は無くならない。そのうちの大部分は再び他の生物の中に取り込まれていく。この世が続く限り、いつまでもこの営みに終わりはない。物質は常に生物の中と外を循環しているが、DNAの次元から見れば循環ではなく、複製と変異という運動がひたすら続いていることになる。細胞分裂と生殖とによって絶え間なく続く自己複製の流れの中で、<私>は常に作りかえられている。<私>は両親のやや異なる複製であり、同じ種であれば多少の差異は含みつつも複製には変わりない。こうして世界には<私>が溢れかえる。<私>はなにもヒトだけに限らない、哺乳類から微生物まで、みな差異の程度こそ違え、基本的には複製されてきた<私>の連なりに属する。<私>が死んでも、別の有機体にとりこまれ、新たな<私>が生き続ける。無くなる<私>と作られる<私>は、どちらも複製品であり、そこにあるのは変異という名の差異しかない。DNAにおいては、<私>は永遠に続く生命の一部であり、すべての生命が差異をはらむ複製である。永遠の生命といっても、ひたすらこの世を生き続ける存在としての<私>であって、あの世の次元は関与しない。これは、たとえば輪廻転生の生命や、死後生の永遠とはまったく別の生命であることを意味する。
 このような生命観においては、生命の価値や存在までもが単なる差異に還元されかねない。物理的、身体的には、一連のものとして共有されながらも、心の次元では生の意味が共有されなくなるのである。そこでは、この世が共通理解を持ちえない。なぜこの世に生きているのか、生き続けているのか、どのように去るのか、そもそも去るとはどういうことか。かつて神話がもたらしていた、こうした根源的な問に対する共通認識がまったくなくなり、ただ個体・個人ごとの差異にのみ認識され、そこに還元される。


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