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zoom RSS メディカルバイオ2009年7月号 新型インフルエンザの特集記事で??

<<   作成日時 : 2009/06/27 04:06   >>

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2009年6月22日発売の雑誌
「メディカルバイオ 2009年7月号」に
新型インフルエンザの特集記事があり、
おもしろいことが書いてあります。
ちょっと突っ込み入れます。
メディカルバイオ 2009年7月号(オーム社)
特設 新型インフルエンザの実態1
分子生物学から見たH1N1新型ウイルスとは何か?




専門家にインタビューした記事が載っています。
最後のほうにおもしろいことが書いてあります。p73

この新型ウイルスが、これまでのヒトのウイルスと比べてユニークな点をご紹介します

この新型インフルエンザウイルスのセグメント2由来のPB1タンパク質の
変異について解説されています。

このPB1はセグメント1から3までにあるRNAポリメラーゼのうちの一つです。

PB1遺伝子の第一フレームからRNAポリメラーゼであるPB1-F1タンパク質を、
第二フレームからは機能がまだよくわかっていないPB1-F2タンパク質が
作られます。
PB1-F2に特徴的な変異が見つかっていて、

この変異はアミノ酸の置換ではなく、終止コドンになっていて、これが3か所確認されており、新型ウイルスにはPB1-F2が欠損していることが明らかになっています

として、アミノ酸のマルチプルアライメントの図で紹介されています。
具体的なウイルスの名前も紹介されていますので、
検証できるようになっています。

新型ウイルスではPB1-F2が3か所の変異により欠損しているのですが、それも第一フレームのアミノ酸を変えないように変異しているためPB1のほうのアミノ酸配列には影響を与えていないという点です。こんなことが自然界で起こるものかと驚愕します

で、マルチプルアライメントを見ると、
確かに3か所の終止コドンへの変異があることがわかります。
それ以外にもアミノ酸置換の場所も示されています。
どうも「驚愕します」と言うほどでもなさそうですので、
実際の塩基配列を調べてみました。

専門家の方はきちんと答えられたのでしょうが、これを聞いた編集者が
理解不足でこんな変な記事になった可能性が高いと思いますが。
驚愕します」の前の文章に違和感を感じます。




新型ウイルスに変異する前と考えられているのは
次のトリ(マガモ)のウイルスのセグメント2です。

Influenza A virus (A/mallard duck/South Dakota/Sg-00125/2007(H3N2)) segment 2
ACCESSION CY033790

まず、この塩基とアミノ酸をデータベースから取ってきました。
実際にはとPB1-F1の途中からしか載っていませんでした。
(記事ではなぜかわかりませんが、開始コドンと思われるところから
載っている)

記事にはこれ以外のアミノ酸配列は14種類載っていて、
そのうち新型インフルエンザウイルスのアミノ酸配列は12種類です。
一番上の(初期に見つかった?)データを取ってきました。
Influenza A virus (A/Mexico/4108/2009(H1N1)) です。
発生源と思われるメキシコから単離されたウイルスの配列です。

Influenza A virus (A/Mexico/4108/2009(H1N1)) segment 2 polymerase PB1 (PB1) gene, complete cds;
and nonfunctional PB1-F2 protein (PB1-F2) gene, complete sequence
ACCESSION GQ149652


先に書きましたように、このセグメント2遺伝子では、
二つのフレームからPB1-F1タンパク質とPB1-F2タンパク質が
合成されます。
PB1-F2は全アミノ酸配列を示していますが、
PB1-F1はPB1-F2領域を含む部分配列を示しました。
PB1-F1はRNAポリメラーゼ活性を持つ酵素の一部です。
PB1-F2の詳しい機能はわかっていませんが、
発症者の重篤化に関わると考えられています。


配列情報をこのブロ本文に貼り付けると
等幅フォント使用のttタグを使っても
スペースをうまく処理してくれませんので、
ファイルにしました。
http://www2.biglobe.ne.jp/~ashida/kurekousen/2009/NO.10-3.pdf

画像



1段目:mallard duckの塩基配列
Influenza A virus (A/mallard duck/South Dakota/Sg-00125/2007(H3N2))

2段目:新型ヒトインフルエンザの相同な塩基配列
Influenza A virus (A/Mexico/4108/2009(H1N1))
トリインフルエンザと同じ塩基配列は「.」で表してあります。

3段目:トリPB1-F1のアミノ酸配列

4段目:トリPB1-F2のアミノ酸配列(1、2列目にはない)

5段目:新型ヒトPB1-F2のアミノ酸配列(1、2列目にはない)




トリのPB1-F2の翻訳領域(80塩基以降)のみで比べてみます。
記事にあるように、
PB1-F1のアミノ酸配列に関しては、トリと新型ヒトで変化はありません。
  (実は、最初のほう、PB1-F2の翻訳領域の前に
  1か所だけ違うところがあります)
従って、新型ヒトのPB1-F1のアミノ酸配列は書いてありません。

ところが、記事によれば、PB1-F2について、
トリと新型ヒトで3か所、終止コドンに変化するところがあるとしています。

記事では、アミノ酸配列しか注目していません。
実際に塩基配列を比べてみますと、
トリと新型ヒトで、塩基配列の違いが10か所あります。
記事ではそのうち3か所にのみ注目しています。
しかし、実際には10か所違いがあるわけですから、
全部見比べてみますと、
10か所とも3の倍数の場所での変異です。

#3の倍数のところだけ変異があることから、
#一昔前ならここで笑いを取るところでしょうが、
#残念ながら、現在それをやると顰蹙をかう。


つまり、PB1-F1の翻訳フレームでは、コドンの3番目、
PB1-F2の翻訳フレームでは、コドンの2番目に変異があります。
10か所とも同じパターンです。

この事実だけでもう後は書かなくてもいいと思うのですが、
念のため少しだけ説明すると、
新型インフルエンザウイルスで10か所の塩基が認められ、
PB1-F1では、アミノ酸にいずれも変化がなく、
PB1-F2では、トリのアミノ酸と比べてすべて変化しています。
アミノ酸が変化するような1塩基置換が10か所あるわけですが、
そのうち3か所は終止コドンに変化することが見つかったわけです。

記事の専門家は(あるいは編集者の聞き間違いかも)
その終止コドンに変化した部分のみを見て、
先の引用のように、

この変異はアミノ酸の置換ではなく、終止コドンになっていて、これが3か所確認されており、新型ウイルスにはPB1-F2が欠損していることが明らかになっています
新型ウイルスではPB1-F2が3か所の変異により欠損しているのですが、それも第一フレームのアミノ酸を変えないように変異しているためPB1のほうのアミノ酸配列には影響を与えていないという点です。こんなことが自然界で起こるものかと驚愕します

と述べているわけです。

この引用部分には疑問点が二つあります。

10か所の変異部分にすべて同じパターンがあるにもかかわらず、
なぜ終止コドンへの変化だけにこだわったのか。

もうひとつは、最後の「驚愕します」のところ。
ホントに驚愕すべき事実なのか?

二つはリンクしていますけど。


まず一つ目。

配列のエントリー名にあるように、
nonfunctional PB1-F2 protein (PB1-F2) gene
であるのは、3つの終止コドンに変化している場所の最初の一つ
だけに注目すればいいはずです。
かなり早い段階で終止コドンになっていますから、
11アミノ酸の短いペプチドしか合成されません。
PB1-F2タンパク質が欠失しているというのは
これだけで十分のはずです。


新型ウイルスではPB1-F2が3か所の変異により欠損しているのですが、

これは単なる編集者の勘違いだろうと思いますので、
いいことにしましょう。
問題は、その後。


それも第一フレームのアミノ酸を変えないように変異しているためPB1のほうのアミノ酸配列には影響を与えていないという点です

3か所ともそうだといったところで、
1か所目でもう翻訳は終わるのですから、
2か所目、3か所目はどうでもいいのでは?

むしろ、この場合、もし驚愕すべきなのであれば
10か所の変異のうち10か所とも専門家が言うように
PB1のほうのアミノ酸配列には影響を与えていない」ことでしょう。
2番目、3番目の終止コドンへの変化は付録のようなものでは?

しかし、これも本当に驚愕すべきことなのでしょうか?


PB1-F2は、細菌の二次感染による重篤かにかかわっているといわれていますから、新型ウイルスの病原性が低いのには、このPB1-F2の欠損が関係しているのかもしれません

この辺とところは疎いので真偽のほどはわかりませんが、
もしその通りなのだとすると、なおさら「驚愕すべき」ことではなくなります。

PB1-F1タンパク質は、RNAポリメラーゼのサブユニットの一つとして
重要な役割を担っています。
これがないと複製できません。
インフルエンザウイルスはRNAウイルスです。念のため。

したがって、PB1-F1の機能を失うような変異は、ウイルスにとって
致命的です。
コドンの1塩基目と2塩基目に変異があると、アミノ酸は変化することから、
RNAポリメラーゼ活性に影響を与える変異になる可能性は高い。
ところが、コドンの3塩基目であえれば、
アミノ酸に変化が起こらない変異がかなりあり得ることから、
この変異は残ります。

フレーム違いのPB1-F2の機能が今ひとつわからないのですが、
このPB1-F2はウイルスの生存にとって、あまり重要ではないのかも
しれません。
したがって、この変異は残るのでしょう。

結果的に3の倍数のところばかり変異があることだけを見ると
「驚愕すべき」ことのように思えるかもしれませんが、
単に淘汰の結果に過ぎないわけですし、
変異はランダムに起こっているはずですから、
致命的な変異が残っていないだけで、
どうでもいい変異が残るわけで、
その結果に「驚愕」しても仕方がないのでは?
それほど珍しいことには思えません。


また、伝えられているように、
PB1-F2が発症者の重篤化にかかわっていいるのであって、
この重篤化というのが宿主を殺すような性質なのであれば、
PB1-F2が機能すると言うことは、
ウイルスにとっても都合が悪いはずです。
宿主が死ねばウイルスも死にます。




今後、1番目の終止コドンに変化した部分に変異が起こり
終止コドン以外のアミノ酸をコードするように変化することはあり得ます。
そうすると、2番目の終止コドンへ変化しているか所は
かなり下流ですので、57アミノ酸残基のペプチドが合成されます。
ただし、それ以外にも、8か所の変異部分がありますし、
その変異の状態が本来のPB1-F2の機能にどう影響しているのか
わかりませんので、何ともいえませんけど、
(というか、何が本来かわかりません)
変異によって、再びPB1-F2の機能がよみがえる可能性は
かなり低いと思います。 

つまり、変異によってPB1-F2の機能がよみがえるかたちでの
新型ウイルスの重篤化、強毒化というのは
考えにくいと思います。


今後、何らかの交雑によってPB1-F2の機能が取り戻されて、高病原性を獲得する可能性もあります

とも述べられています。
これは、上の理由で、再変異と言うことではなく、
セグメント2がまるごと置き換えられることを想定しているのだと
思います。
それがどの程度の可能性なのか知りませんけど、
あり得ることは確かでしょう。


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