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zoom RSS 構造と機能 モノとコト1 減数分裂とゲノムとワタクシ

<<   作成日時 : 2008/06/15 03:48   >>

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2008年04月20日付の朝日新聞書評欄にある書評が載りました。
朝日新聞本社論説委員の尾関章氏による、
ポール・デイヴィス著、吉田三知世訳「幸運な宇宙」(日経BP社)
の書評です。

書評対象の「幸運な宇宙」はなかなかおもしろい。
いろいろ考えさせてくれたのですが、上記の書評もこれまたおもしろい。
あまりにもおもしろいので、これをネタに、前期中間試験問題を作りました。

その解答例らしきモノを作っているうちに、昔考えていたことがいろいろ湧いて出てきました。
せっかくなのでメモを残すことにしました。


例の書評というのは次のような文章ではじまります。

■ここにいるワタクシの危うさと幸運
おばあさんは2人。ひいおばあさんは4人。「ひい」が九つ並ぶおばあさんなら千人を超す。そのなかの1人が、ちょっとだけ面食いで「ひい」が九つ並ぶおじいさんを拒んでいたら、今のこのワタクシはいなかった。
考えてみれば、ワタクシって危うい。
その危うさは宇宙だっておんなじ。この本は、そこのところを突いてくる。


自分の10世代前の祖先は計算上1024(2の10乗)人います。
この書評氏は「私が生まれてきたことの幸運さ」を説明するのに、多数の祖先のひとり、例えば11世代前の「あるひとりの女性」の行為しだいで自分は生まれてこなかったかも、と心配しています。
おそらく、遠い昔の多くの人の中のたったひとりの行為如何で自分の誕生が危うい、だから自分の存在は幸運だと説明しようとしていると思われます。

でも、ちょっと変ですよね。
言いたいことはわかるのですが、たとえに使った題材が悪すぎます。


「ここにいるワタクシの危うさと幸運」を説明するのに、書評氏が、なぜ11世代前までさかのぼって考えたのか疑問です。
自分のゲノムに含まれる遺伝子に焦点を当てることで、「ここにいるワタクシの危うさと幸運」は親の世代の「気まぐれ」を心配するだけで十分だと思うんですが。

それ以前に、評者が心配する「面食い」が親にあれば、親の組み合わせ自身が生じないのなら、「今のこのワタクシはいなかった」のであり、考えてみなくても「ワタクシって危うい」ですけど。。。



そこまで言ってしまうと元も子もないので、ここでは違う「気まぐれ」を心配してみましょう。

自分の心や意識はともかくとして、自分の肉体の独自性は自分のゲノムによって決まると考えられます。
少し説明すると、自分の物質レベルでの存在は、基本的には親から受け取ったゲノムの遺伝情報によって成り立っています。
その遺伝情報の本体はDNAという化学物質であり、DNAを構成しているヌクレオチド、すなわち、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの並ぶ順番、塩基配列が遺伝情報で、その遺伝情報全体、つまりゲノムが自分の肉体の固有性を決めているといえます。

もちろん、一卵性双子の例からわかるように、ゲノムだけで肉体のすべてが決まるわけではなくて、後天的な環境要因も関与します。
しかし、少なくとも、自分の固有性は自分のゲノムの存在が前提であることは間違いありません。


上記のように、ある生物を構成している遺伝情報のすべてをゲノムといいます。
ヒトの体細胞内の核にはゲノムは2セットあります。
ひとつは親の卵子ゲノム由来で、もうひとつは親の精子ゲノム由来です。
このふたつのゲノムの遺伝情報にしたがって、自分という物質は組み立てられ、時々刻々と手直しされています。


では、自分の遺伝情報の元になった親の卵子ゲノムや親の精子ゲノムとはいったい何者でしょうか。

卵子や精子は減数分裂によって生じます。
減数分裂は、卵母細胞や精母細胞から生じます。
卵子も精子も、生じ方の基本は同じですので、以降、卵子のみ説明しましょう。

母親の体細胞にも2セットのゲノムがあります。
母親を構成する体細胞には卵母細胞を含めて基本的には同じゲノムが存在します。
卵母細胞から減数分裂によって卵子が生じる過程で、対になっている相同染色体が分離してひとつになります。
つまり、卵母細胞のゲノムは2セットですが、卵子のゲノムは1セットだけです。

ヒトの染色体は23対あります。
1本の染色体に1本のDNA分子が存在します。
対になっている染色体の遺伝情報、すなわちDNAの塩基配列は基本的にはよく似ていますが、0.1%程の違いがあります。
23対の染色体の内、どちらかひとつの染色体だけが卵子に残りますので、卵子のゲノムは2の23乗通り(約840万)あることになります。

減数分裂する過程で、交叉という現象が起こります。
これは対になっている染色体同士(実際には倍加した姉妹染色分体同士)がねじれるようにして重なり、分離することです。
その結果、卵子に残された染色体は卵母細胞の染色体対のモザイクになります。
このような現象から、ひとりの女性から作られる卵子のゲノムは無数と言っていいくらい多くの種類の可能性から作られることがわかります。

この無数と言っていいくらいの多くの卵子の中からたった1個だけが偶然選ばれて自分のゲノムセットの一員になるわけです。

精子も同様です。


したがって、自分のゲノムセットを構成する卵子ゲノム、精子ゲノムともに、無数と言っていいくらいの種類からたまたま選ばれたあるひとつのゲノムからなる偶然の産物と言うことになります。

そう認識すれば、自分の存在は、11世代前の1024人の内のひとりの気まぐれを心配しなくても、1世代前、つまり親の「気まぐれ」だけで、自分の存在が危うく、また幸運であることがわかります。


同じペアから産まれてくる可能性のある子も無数にあることがわかります。

産まれてくる子に含まれるゲノムセットは、必ず両親のゲノムセットにある遺伝情報が使われており、両親以外の遺伝情報が入り込む余地はありませんが、両親の持つ遺伝情報のセットのうちいずれかが偶然選ばれることによって、無数と言っていいくらいの可能性のうちのひとつということになります。

同じペアからきょうだいでよく似た子が産まれてきます。
これは上記で説明した偶然の産物が複数生じたからです。
一卵性の双子を除けば、同じゲノムを持ったきょうだいが生まれてくる確率はほとんどゼロです。
(一組のペアから交叉を考えなくても840万x840万通りあります。これがいくらになるか計算してみてください)


ここまで考えてくると、私を構成しているゲノムセットがこのゲノムセットであることは、恐ろしいくらい確率的にあり得ないほど偶然の産物と言うことがわかります。
ワタクシがワタクシとして誕生するのは偶然であって、その偶然は親の世代の減数分裂の過程で選ばれた染色体の数多くの組み合わせのうちから、たまたま選ばれた遺伝情報を持って誕生したわけです。

この自分が存在していることは、11世代前の女性の気まぐれも重要でしょうが、あえてそれを想定しなくても、1世代前を考えるだけで、ものすごく危うい存在であることが容易に理解できます。



偶然誕生したのだからどうでも言い存在だと言いたいわけではありません。
確率的にはまれな存在だと言っても、現に自分は存在するわけで、自分にとっては自分の存在は紛れもない事実です。
自分以外の心が生まれる可能性のほうが圧倒的に高いのに、なぜ自分なのか。
ということを問い続けるのも面白いでしょうが、ここでは考えません。

自分の存在は自分ではどうすることもできませんが、自分の存在はある意味多くの可能性の中から選ばれた存在ともいえるでしょう。

ただ、これを神による奇蹟ととらえるのはよくありません。

自分が生まれないといけない存在だと思うのなら、それで生まれてきたわけですから神の奇蹟とでも考えたくなるでしょうが、麻雀の配牌だと思えば、また考えかたが変わります。

麻雀でもトランプでも花札でも、配られてきた牌やカードは偶然です。
しかし、その配牌でなければならないのであれば、恐ろしい確率の中のひとつですから、そればもし配られてきたとしたら、それこそ奇蹟・奇跡です。

でも、この話はやめましょう。


もし、この自分を構成しているゲノムセットの「機能」として自分の「意識」があるのなら、自分の意識もこの世に誕生すると言うことはあり得ないくらい低い確率から誕生したことになります。


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