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zoom RSS 世の中にはいろんな酵素があります

<<   作成日時 : 2007/03/12 01:07   >>

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酵素
 エンザイム 酵素液 酵素風呂
自然科学が使うところの酵素とは、生体の代謝を触媒する化合物のことです。そのほとんどはタンパク質で、まれに酵素活性を持つRNAがあります。
世の中にはこの酵素と同じ用語を使いながら、この酵素とは違う酵素があります。
エンザイム、酵素液、酵素風呂などです。
エンザイム説は別のコラムでも取り上げましたので、ここでは、おもにいわゆる酵素液、その酵素液を使っている酵素風呂について考えます。
いわゆる酵素液にも二種類あり、人用と農作物用で作り方も成分も異なるようです。

今年度の最後の授業で、ベストセラー本から引用した文章を読んで感想を書いてもらいました。カバーが赤から緑(続編)に変わった、とあるベストセラー本から、白砂糖は有害だが黒砂糖はいくら摂ってもいい、白い塩は高血圧になるが、自然塩は病気にならず健康によいとか(白いのはダメだとも書いてある、この論でいけば、白ブタはダメで黒豚はよいとか、白い卵はダメで褐色など色つき卵はよいということになる、まさに民間信仰そのもの)、あるいは、「あるある」批判本から、培養酵母は有害だが天然酵母は健康によいとか書いてある文章を引用しました。
優秀な答が多かった中に、ひとつ、民間信仰の酵素液を肯定的に書いているのをみてビックリしました。酵素とは何かと言うことを、遺伝子からタンパク質の構造のレベルまで(「やさしいバイオテクノロジー」のレベルで)話していたのですが、最後にひっくり返ってしまいました。

ちょうどタイミング良く、書店で「現代農業 平成19年3月号」(農山漁村文化協会)が「自分で作る植物酵素」という特集をしていたので買い求めました。
植物酵素液は健康にいいし肥料としても抜群の力を発揮してくれる魔法の液体として紹介されています。どうやって作るのか何が入っているのか、興味を持って読もうとすると、いきなり編集部が次のような囲み記事を書いています。

「農家が手作りしたり、食品や農業資材として販売されたりしている「酵素」は、科学的な意味の酵素だけでなく、発酵生成物全体を指すことが多いようだ」

どうやら普通の酵素だと思ってはいけないらしく、独特の酵素の用法があるらしい。
しかし、かなりのページを割いて普通の酵素の説明をしているので、普通の酵素も重要らしい。
この説明だけではよくわかりませんが、作り方を知ればわかるのかも。
では、作り方を見ていきましょう。

野菜(根菜)や果物、ダイズ、つまり植物ですね(動物は使いません)、白砂糖に市販の発酵菌それに「海のもの」(なんだろう?)を加えてかき混ぜるそうです。絞り、濾過し、海の精(なんだろう?)をくわえ、小分けして冷暗所で保管。手作りだから、市販の高価な万田酵素と違って安いそうです。
ちなみに、万田酵素は50数種の植物、黒砂糖などから、3年3ヶ月以上の年月をかけて発酵・熟成して作った「植物発酵食品」です。
作物用には酵素の字を使っていませんので、ここでは取りあげません。

ここで紹介した酵素液は、なによりも手作りなのが一番。
この手作り、深い意味があります。
最初にかき混ぜるときの一番のポイントは素手でかき混ぜること。これを守らないといけない。
なぜ素手かというと、自分の皮膚に付いている常在菌を植え込むんだそうです。
この常在菌で発酵させるのがとにかく一番のポイント。
常在菌の種類は人それぞれ異なるから、できあがる酵素液もそれぞれ違うものができるそうです。まさに手作りですね。

できあがった液体が酵素液と言うことになります。未使用の砂糖も相当残っていそうなので、かなり甘いらしい。
この中には、植物酵素、細菌酵素、酵母酵素が含まれていると言うことだろうか?
それに、それぞれの細胞から抽出?された多くの代謝産物も含まれているから、雑誌編集部の言う「発酵生成物全体」なのでしょう。

雑誌にはビックリするようなことがいろいろ書いてあります。
「酵素は生命ではなく、触媒だから農薬の影響を受けない。今の農地は農薬で微生物が弱くなっている。その働きを補ってやるのが酵素だ」

白砂糖を大量に使うので、酵素液はかなり甘い。太ってしまうか心配。作物用だと、甘いニオイで害虫がよらないか心配。でも次の理由で大丈夫だそうです。
「発酵でショ糖がブドウ糖に変わっているから大丈夫。ショ糖は太るがブドウ糖は太らない。ショ糖は虫のエサになるが、ブドウ糖はエサにならない」

力強い断言です。ありがたい御神託ですね。

ちなみにブドウ糖というのはグルコースのことで、単糖です。
ショ糖というのはグルコースとフルクトース(果糖)という二つの単糖からなる二糖です。
人が食べたショ糖は小腸の酵素により加水分解され、グルコースとフルクトースになります。
グルコースはいろんな臓器にすみやかに吸収されます。フルクトースの一部はグルコースに代謝されます。残りのフルクトースは肝臓に行きます。
先の引用文の通りだと、ショ糖は発酵によりブドウ糖になるということは、ショ糖が加水分解してブドウ糖と果糖になり、果糖はブドウ糖に異性化することになります。
ショ糖は太るがブドウ糖は太らないのであれば、太る原因は果糖なのでしょうか?
ブドウ糖は虫のエサにならないというのもスゴイですね。

その本の中で知りました。「酵素風呂」。
おがくずのような固体に希釈した酵素液を振りかけると、発酵が進み、温度が高くなり、その暖かい中に砂風呂のように入ると健康にいいそうです。
Webで調べると、全国に酵素風呂があるそうです。
で、近くの酵素風呂へ早速見学に行きました。
美肌やダイエット、冷え性など万能の効果が期待できるそうです。
汗をかいてリフレッシュする、レジャーとして酵素風呂を活用することはいいことだと思います。普通に風呂に入ったりサウナに入ったり、森林浴したり、別段とやかく言うことはありません。自然に親しむのもいいことです。

ところが、酵素風呂の中にはちょっとマズいコピーもあります。
他の健康食品と同じパターンです。
年をとると、ストレスが多いと、、、○○が不足しがち、補う必要がある、○○を摂るとよい、という黄金パターンです。
年をとると酵素が不足しがち、酵素を補う必要がある、酵素風呂へ直行!
酵素風呂にはいると、酵素風呂の中の酵素が皮膚を通じてあるいは呼吸を通じて吸収されるそうです。怖いですね。
酵素には動物性酵素、植物性酵素と分類するそうです。人の体内にあるのはもちろん動物性酵素。ところが、なぜか補うといいのは植物性酵素。
動物性酵素が減っているのではなさそうです。
植物から作った酵素を含む酵素風呂が一番なのだそうです。
不足した体内酵素を植物酵素で補うという発想なのでしょう。
これはエンザイム説の黄金パターンと全く同じです。

加工食品をばかり食べていると、加工食品には死んだ酵素しかないので生きた酵素は補えない、だから生きた酵素を含み生の野菜を食べるのがいいという民間信仰があります。
加工食品中心の食事をしていたのでは、なかなか生きた酵素はとりにくいので、酵素が不足し、伝家の宝刀の免疫力が低下し、いろんな病気になりやすい。
だから、
酵素を補うために酵素液を飲もう、となります。
飲むだけでなく、酵素風呂にも入ろう、となります。
酵素風呂だと、酵素風呂から酵素が吸収されるだけでなく、加工食品を食べることで不用意に取り込んでしまった化学物質や食品添加物などの毒を、汗をかくことで老廃物と一緒に排泄してくれるという、非常に頼もしい効能もあるそうです。

ここまでなら話は、全く非科学的ですが、それほど被害はなさそうですから、別段問題ありませんし、とやかく言いません。
ところが、アトピーが治る、ガンが治る、という話しにいきますと、ちょっと問題があるのではないでしょうか。
人里離れた田舎でいい汗をかいてリフレッシュする、というのであれば何も問題がありません。しかし、病気が治る、それを信じて病院による治療を中止する、そういう方向に行くのは危ないことでしょう。

酵素風呂に入っても、残念ながら、酵素風呂に含まれる植物酵素が人間の皮膚の細胞を通じて吸収されることはありません。
酵素はタンパク質ですから、分子量が非常に大きな分子です。
こんな巨大な分子が簡単に細胞に吸収されるのであれば、正常な細胞機能は維持できなくなり、逆に病気になってしまうでしょう。
でも心配いりません。吸収されませんから。

もし吸収されたとしたら、どのような効能が期待できるのでしょうか。

酵素というのは、単に漠然とした健康にいいという物質ではありません。
酵素は生体の化学反応を触媒するわけですが、ヒトの細胞でおこなわれている代謝反応は無数にあり、それぞれ特異的な酵素が働きます。
酵素の特異性というのはある酵素が触媒できる反応は非常に限られているということです。
ですから酵素もたくさんの種類あるわけです。何個あるかはまだわかっていません。
すべての酵素が細胞に備わっているわけではなく、必要なときに必要の分の酵素が作られ、不要になればすぐさま分解されるという調節をおこなっています。
必要な酵素は細胞や臓器の種類ごとに異なります。酵素であれば何でもいいわけではありません。

動物と植物で含まれる酵素は異なります。
よく似た働きを持つ酵素でも特異性の異なるものもあります。
植物酵素がヒトの細胞に入ってくることはありえませんが、たとえ入ってきたとしても、たまたま入ってきた酵素がたまたまその細胞にとって必要であった酵素と同じ触媒能を持っていることは考えにくく、したがって、植物酵素がヒトの細胞で機能する場はほとんどありえません。

ちょっと追加です。
以上のような「酵素」に対する誤解は、「遺伝子」に対する誤解にも当てはまるでしょう。
「酵素」とか「遺伝子」と言ったとき、全体を指す総称として使うときと具体的なあるひとつのタンパク質、あるひとつの遺伝子を指して使うときで意味が違ってきます。
この二つの違いを区別しないと、とんでもない誤解が生じます。

ヒトの遺伝子という場合、ヒトには2万数千の遺伝子が確認されていますから、この2万数千の遺伝子すべてを漠然と指して使うことがあれば、ある特定のタンパク質をコードしている遺伝子のみを指すこともあります。
遺伝子組換え技術で使う遺伝子は、ある特定のひとつの遺伝子だけを指します。
このとき、遺伝子を総称としての遺伝子と勘違いすることで、遺伝子を組換える、遺伝子を操作する、という言葉の響きに、遺伝子全体を何か操作するというイメージに結びつくと、何かとんでもない不自然な怪物ができるとイメージしてもおかしくないでしょう。

同じように、酵素にも誤解があります。
酵素液や酵素風呂の効能を説明するとき、コラーゲンなどの説明と同じように、酵素とは何か、酵素はどんな働きをするのか、酵素は実に多種多様な働きを持つ、といった説明が必ずあります。
この場合、個々の酵素の話をしているのですが、この後、総称としての酵素の賛辞に話が流れていきます。
年をとると酵素を作る能力や蓄える量が少なくなる、新鮮な野菜にはたっぷり酵素が含まれている、酵素液には生きた酵素がたっぷり含まれている、だから、新鮮な野菜や酵素液を摂ると良い、という話になっていきます。

このように、個々の酵素の話から総称としての酵素の話に突然切り替わり、全然つながりのない話にもかかわらず、さも関連があるかの如く説明が続きます。
だから酵素液や酵素風呂が良いんだと。

コラーゲンも同じです。
コラーゲンの多様な働きがよく説明されますが、その働きを持つためには、その働きが必要な場所で、特定の種類のコラーゲンがある特定の構造をと時の話です。
個々の種類の個々の臓器でのコラーゲンの働きです。
ところが、この個々の話をいきなり総称としてのコラーゲンの話に飛躍してしまうのが、サプリメントの効能を説明する文によくあるパターンです。
この飛躍があるからこそ、魚のコラーゲンを使おうが、ペプチドに分解していようが、アミノ酸にまで分解していようが、かまわずに効能が説明できてしまうのです。

ミラクルエンザイム説で言うエンザイムを語るときも、特定のエンザイムはでてきません。
ある特定の働きをするエンザイムが、どうのこうのという話は出てきません。
漫然としたエンザイム全体の話だけで語られます。
ところが、エンザイムとは何かとか、エンザイムはいかに大切なものかという説明をするときには個々の酵素の働きが説明されます。
しかし、漫然とした「エンザイム」の話と個々の「酵素」の働きの話との間には大きな溝があります。
その溝が無いかの如く、うまく、あるいは気がつかず説明するのがニセ科学の特徴です。

ということで、ニセ科学のトリックのひとつが見えてきましたね。

免疫療法と免疫力でも同じことがいえると思います。
たとえば、ガン治療における免疫療法は、ターゲットを絞って特定の免疫系のみに介入します。
ニセ科学では次のように免疫力というよく分からない言葉に姿を変えて説明されます。
ガンは免疫が関与する病気である。ガン細胞は日々作られており、免疫の力でやっつけてくれている。しかし、ストレスなどで免疫力が低下すると、退治してくれなくなって、ガンになる。
だから、
免疫力をつけることでガンの予防になる。
免疫力を増大させることで、ガンが消え、ガンが治る、と。
その説明には、必ずある特定の商品が出てきます。これを摂れば、免疫力が高まると。
そして、必ず体験談が載っています。

この場合、免疫力というのは実態がありませんし具体的でもありません。何となくあるイメージです。
イメージで予防し、イメージで退治します。
ガン免疫療法は、実態があり、具体的な治療法です。

遺伝子組換え食品に対して必要以上に恐怖心を植え付ける話も、同じトリックが使われています。
特定の遺伝子の話なのに、全体の遺伝子の話にすり替えて話をあおる。
もしかしたら、意図的ではなく、気がついてないだけかも知れませんが。

やさしいバイオテクノロジー 血液型や遺伝子組換え食品の真実を知る (サイエンス・アイ新書)では、具体的な個々の遺伝子の構造とその遺伝子産物であるタンパク質の働きを複数例詳述し、「ひとつの遺伝子」と「漫然とした遺伝子群」や「遺伝子全体=ゲノム」を区別して、その違いをしつこく何度も話題を変えながら説明しています。

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内 容 ニックネーム/日時
酵素のことで知りたいことがあったので、たいへん勉強になりました。参考になります。
かぼちゃん
2009/02/13 16:12
先生の記事を拝読して
酵素について考えが変わりました
手作り酵素が健康や美容に役立つとばかり
実は野草酵素手作り作成中
中1の息子と発酵食品のこと調べてます
先生の記事 面白くて引き込まれます
勉強になります
ありがとうございました
デブリン
2012/04/29 18:41

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