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zoom RSS コドンがアミノ酸を合成するわけではありません

<<   作成日時 : 2006/11/20 22:10   >>

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[SI新書]やさしいバイオテクノロジー 血液型や遺伝子組換え食品の真実を知るを読めば、一応、遺伝子のことがわかります。以下の記述の何がおもしろいのかわからなかったら、本書を読んでみてください。
 海野真凛「かぐやひめの遺伝子」(新風舎・2006年11月)はなかなかおもしろい。
ネット書店での説明は『いまや食べること自体、危険だ。政府と農業研究場がつくりだした遺伝子組み換え米「かぐやひめ」が日本中を大パニックに陥れる』とある。ワクワクしませんか?
本の帯をみると、『あなたはいま、何を食べていますか』と問いかけ、『わたし達が常に、「遺伝子を食べている」という事実です』と自信を持って言い切っています。
さらに、「栄養素のこと、健康のこと、様々な人間にとってのことを考えるより前に、わたし達の体には、別の生命の遺伝子が消化されているのです」といって、他の生物の遺伝子を食べていることを問題視しています。
なかなかおもしろいコピーなので、どんなトンデモかと期待して読んでみました。

 ひとことで言って、いつものことですが、帯に騙されました。
小説の科学的な内容は帯に書いてあるほどトンデモではなく、比較的まともでした。
残念。

 帯を書いた編集者(と思う)は「遺伝子」を完璧なまでに誤解していますね。
本書が新風舎の最優秀賞を受賞したときのタイトルが「かぐやひめ」なので、単行本のタイトルに遺伝子を追加したのも、たぶん編集者なのでしょう。
本の裏表紙にも「死因は、遺伝子」とここにも遺伝子が強調してあります。
さらに、帯には「著者の海野氏は農業を営みながらも遺伝子を研究し」とさらに遺伝子の追い打ちをかけています。

 どんな殺人遺伝子、悪役遺伝子が登場するのかと、期待してしまいますよね。

 この編集者による、とことん遺伝子を悪者にしなければならない独り相撲がなかったら、この本を読もうと思わなかったわけで、その点では、編集者のトンデモが勝ちかも。


 この小説に「遺伝子」はほとんど登場しません。
遺伝子の説明も出てきません。
遺伝子が物語のキーになることもありません。
したがって、著者が遺伝子をどのように理解しているのか不明ですが、少なくとも、この小説を売り込む立場の人が遺伝子を理解していないことだけは確かです。

 裏表紙の「死因は、遺伝子」という目立つコピーは、残念ながら小説の中ではひとことも触れられていません。
この小説では多くの人が死にますが、その死因が「遺伝子」である事例は登場しません。


 ただ、この編集者の独りよがりはしかたがないとして、著者も致命的な勘違いをしています。
途中までいい線行っているだけに、残念。

 この勘違いがないとこの小説が成り立たないので、間違いを指摘するのは野暮かも知れませんが、試験の答案にも同類の勘違いがあるので、少し説明しておきます。

 本の裏表紙にもあるように、この物語は『遺伝子組み換え米「かぐやひめ」』を『食べた人間が次々と心臓発作で倒れ、死んでいく。その原因は、脳内で異常発熱した細胞内物質ミトコンドリアだった。死因は遺伝子』というもの。

 ミトコンドリア云々はフィクションなので、ミトコンドリアが主体性を持って暴れ出すのは(どこかで聞いた物語ですが)いいでしょう。
生物学や分子生物学関連で、数多くの間違いを指摘することはできますが、全部目をつぶりましょう。




 (以下ネタバレ注意)
 ひとつだけ指摘するなら、「ミトコンドリアのアルギニン活性が強くなる」という点です。
なんのことやらわかりませんね。

 コドン表には例外があります。その例外は開始コドンや終止コドン周りに多く、とくにミトコンドリア内でのコドン表に例外がみられます(「2−3. 翻訳とタンパク質」の「○番外:遺伝コードの例外」参照)。
このコドン表の相違を利用して、この小説は書かれました。
この点は本書のp3をみてもすぐにわかります。

 植物のミトコンドリア(問題の遺伝子組換え米「かぐやひめ」由来ですね)のコドンが暴れ出して、コドンが核ゲノムに影響を与え、コドンが核ゲノム由来のタンパク質合成を狂わせ、結果的に突然死に至るというストーリーです。
物語の核なので詳しく書けませんが、、、

 ただ、このストーリーが成り立つためには、「コドンがアミノ酸を合成する」ことが必要になります。

 物語の中盤に、大学で司法解剖を担当する監察医の口から次のような解説があります。
「ミトコンドリアはユニバーサルコードの停止コドンをどんどん生産して、あっという間に生体のすべての生命現象を停止させてしまった」(p232)
「ユニバーサルコードのアルギニンはミトコンドリア内ではアルギニンかトリプトファンです。それが人の体の中で変化してしまった。ほ乳類のミトコンドリアにとってはトリプトファンでも、普通の細胞では停止を意味していて、もうDNAはアミノ酸をつくらなくなる」(p232)

 終盤の謎解きの場面で、テレビの人気ニュースキャスターが次のような説明をします。
「UUAという塩基の並び、つまりコドンがつくられたとき、われわれの細胞内ではロイシンというアミノ酸をつくりなさいという指示が出されたわけです」(p297)。

 何げなく読んでいると、翻訳過程の説明として正しいように見えます。
ところが、著者は「アミノ酸をつくりなさい」ということを文字通りとらえ、コドンはある特定のアミノ酸を<合成する>指令を出すという、つまり、<コドンからアミノ酸が合成される>という勘違いしてしまいます。
さらにいうなら、「コドン」も「DNAから合成される」と思っているようです。

 専門家の大学教授が口にする「かぐやひめのミトコンドリアのつくり出すアミノ酸が狂い始めている」(p303)という表現からもこの勘違いは間違いないでしょう。

 かくして、「ミトコンドリアのアルギニン活性が強くなる」という表現は、かぐやひめのミトコンドリアのDNAがアルギニンのコドンをたくさん作り、そのコドンがアルギニンをたくさん作っているという意味であることがわかります。


 さらに、ある遺伝子の突然変異と、核ゲノムとミトコンドリアゲノムにおけるコドン表の相違も混同してしまっています。

 突然変異を説明するとき、ゲノムの中のある特定の遺伝子の変異をとりあげていながら、その変異と核ゲノムとミトコンドリアゲノムのコドン表のちがい、つまり、翻訳システムそのもののちがい(使われるtRNAやリボソームなどのちがい)を混同してしまい、ある塩基の変異が翻訳システムのちがいにまで一気に話が大きくなってしまいます。


 結局、かぐやひめの変異したコドンが、その米を食べた人の生体内の細胞に入り、生体内ではそのコドンはアミノ酸が合成できず、停止コドンとして働き、生体内のタンパク質合成をストップさせて突然死にいたることになります。


 ミトコンドリアが暴れ出すのと同様、コドンがアミノ酸を作るのもフィクションだといってしまえばそれまでです。
コドンが独立して主体的に働きを持つようになり、「コドン怪獣」が暴れ出すと。
しかし、リアリティを持たせる意味でも、もう少し工夫ができなかったものでしょうか。
本当に残念です。


 読み終えてから、帯や裏表紙を読むとまた楽しめます。
編集者は概ね次のようにおっしゃっております。

 この小説はなぁ、遺伝子が犯人なんやで。遺伝子が人殺しなんやで。食ったコメの遺伝子がヒト殺すことできるんやで。コワいやろが。おまえら普段なに食っとるんや。遺伝子食っとるやろが。遺伝子をごちゃごちゃいじった組み換えナントカとかいうのを食っとるやろが。そんなんでええんか。どんな食いもんか、よう調べてから食ったほうがええでぇ。よう知らんうちに食ってたらなぁ、そのうち遺伝子に殺されるでぇぇぇぇ。気いつけぇや。

やさしいバイオテクノロジー 血液型や遺伝子組換え食品の真実を知る (サイエンス・アイ新書)

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ブックレビュー「かぐやひめの遺伝子」
 最近は出張が減り、電車に乗る時間が減ったため本を読む時間が少なくなってきました。気になる本はいっぱいあるのに読む時間が・・・。今回は、遺伝子組み換え作物をテーマにしたフィクションかぐやひめの遺伝子を読みました。 ...続きを見る
よしなしごと
2007/05/17 02:06

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