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[SI新書]やさしいバイオテクノロジー 血液型や遺伝子組換え食品の真実を知るも参考にしてください。 <クローンネコ> ペットであるネコでも体細胞クローンが誕生しています。 Taeyoung Shin, Duane Kraemer, Jane Pryor, Ling Liu, James Rugila, Lisa Howe, Sandra Buck, Keith Murphy, Leslie Lyonsand Mark Westhusin, Cell biology: A cat cloned by nuclear transplantation. Nature 415, 859 (21 February 2002) これを受けて、米カリフォルニア州のベンチャー企業が世界で初めてクローンペットのビジネスを始めました。 これは、飼い猫が死んで、あきらめきれない人に、死んだネコと同じゲノムをもつクローンネコを提供するというものです。 体細胞クローン技術を使えば原理的には同じゲノムをもったネコが誕生します。 朝日新聞2006年10月13日の記事によれば、クローンネコを誕生させる成功率に問題がありましたが、それ以上に顧客が集まらず、同社は2006年いっぱいで廃業することになりました。 また、記事によれば、同社は計5匹誕生させましたが、実際に販売できたのは2匹だけだったそうです。 かなり少ないですね。確かに商売が成り立ちません。 クローンネコは1匹5万ドル、昨年から3万2000ドルに値下げしていたそうです。 「同じDNAを引き継いでいても、毛の模様は同じにはならず、こうしたことも需要が伸びなかった一因とみられる」と記事にあります。 例によって、「DNA」ではなくて「ゲノム」ですね。新聞では「ゲノム」という言葉が難しいからか、よく「DNA」や「遺伝子」と言い換えています。 もちろん誤用です。 「毛の模様は同じにならず」の部分を少し解説しましょう。 毛の色を決定している遺伝子群のうち、ひとつはX染色体上にありますので、X染色体の特殊な発現の仕組みを解説する必要があります。 まず、ヒトの場合から。 <X染色体の不活性化> X染色体は、正常なヒトの場合、男性は1本、女性は2本あります。 このことから、X染色体上の遺伝子の発現に男女間で違いが出そうですが、実際にはX染色体の遺伝子は巧妙に制御されており、女性では2本のX染色体の対立遺伝子のうち1本だけが発現し、男性と同じ発現量になるように制御されています。 すなわち、正常な女性のもつ2本のX染色体のうち、1本は不活性化して働かず、1本のみ機能するシステムがあります。 これがX不活性化です。 ちなみに、常染色体は、通常、両方とも発現しています(遺伝子単位でみれば、一方だけ発現しているのもある)。 男性に比べて女性はX染色体の数が多い「性染色体過剰」状態ですが、X不活性化により、発現の仕方は男女でほぼ同じだと考えられます。 ターナー症候群として知られているXモノソミー(性染色体がX染色体1本だけ)が生存できることがX染色体の不活性化の理由のひとつとして考えられています。 ちなみに、YモノソミーはX染色体を全く持たないので生存できません。 X染色体が通常より多い場合もあります。XXX、XXXXやXXYなどです。 正常なXXやXY、ターナー症候群であるXOも含めて、X染色体が何個であろうと細胞当たりの働くX染色体の数はひとつだけです。 これが実現するためには細胞当たりのX染色体が何個あるか「数える」システムが必要になりますし、どれかひとつだけ残して、他をすべて不活性化するシステムも必要になります。 これらの一連の複雑な仕事を担っているのが「X不活性化中心」と呼ばれる場所にある遺伝子です。 女性のカラダを作っている60兆個の細胞は、細胞レベルでみれば2種類の細胞がモザイク状になっています。 ある細胞は父親由来のX染色体、別の細胞は母親由来のX染色体が発現していて、細胞レベルでみれば、この2種類の細胞がモザイクになった状態といえます。 細胞のなかにある2本のX染色体のうちどちらが不活性化するかは偶然と考えられています。 一卵性双生児はお互いにクローンです。ゲノムレベルでみれば、基本的には互いにまったく同じです。 しかし、女性の一卵性双生児は男性の一卵性双生児ほどお互いによく似ていない場合が多い。 これは、X不活性化で説明できます。 女性の一卵性双生児の場合、胚の段階からX不活性化がランダムにおこり、すべての細胞でX染色体のスイッチがランダムに切られることから、どのように育つのかまったく予想できません。 X染色体上の遺伝子の多様性に起因する遺伝性の疾患や多様性の現れ方は、女性の場合、男性ほど単純ではなく(男性のX染色体はひとつしかないし、常染色体にX染色体のような染色体丸ごとの不活性化といった現象は確認されていない)、往々にして複雑であり、一卵性双生児間で異なる遺伝性疾患を示すことがあります。 X染色体の不活性化は、実はそれほど単純ではないことが分かっています。 X染色体にはY染色体の一部と相同な部分がわずかにあります。 このわずかに相同な部分はXX、XYにかかわらず対立遺伝子があります。 したがって、この領域は不活性化する必要がなく、実際不活性化が起こっていないらしい。 つまり、XXの場合、1本のXが丸ごと不活性化しているわけではなく、ごく一部に両方発現している領域があります。 Xモノソミーで異変が見られるのは、不活性化の不完全さだけでなく、このYと共有している領域の発現にも関わっていると推測されています。 <X染色体不活性化の例 三毛猫のできかた> X染色体の不活性化の一番わかりやすい例は三毛猫です。 ネコもヒトと同じようにメスの性染色体はXX、オスのそれはXYです。ちなみにネコの染色体は19対38本です。 三毛猫になるのは一般に雌のネコだけです。 X染色体をふたつ持っている雌のネコにのみモザイク状に該当遺伝子が発現するため、三毛猫になります。 雄のネコはX染色体をひとつしか持っていないので、通常、三毛猫にはなりません。 もう少し説明しましょう。 ネコの毛の色を決定している遺伝子は少なくとも9種類あります。 話を単純化するため、そのうち3種類にだけに絞ります。本当はもっと複雑です。 1.白色を規定している遺伝子は常染色体上にあります。仮に対立遺伝子をW(優性)、w(劣性)とします。 2.白色の斑模様を規定している遺伝子も常染色体上にあります。仮に対立遺伝子をS(不完全優性)、s(不完全劣性)とします。 3.茶色を規定している遺伝子はX染色体上にあります。仮にOとo遺伝子とします。X染色体にあるので優劣はありません。 ちなみに、「茶色」ではなく「オレンジ」とする説明(米)、「ショウガ色」(英)とする説明もあります。 また、別の遺伝子とのかねあいで、「赤色」と「茶色」を区別することもあります。 1.全身の白色を規定するW遺伝子の話 遺伝子型がWWの場合、ネコの肌は白一色になります。 Wwの場合も、Wはwに対し優性なので全身が白になります。 このW遺伝子は他の毛の色を規定する遺伝子に対して一番強く働きます。 つまり、遺伝子型がWWあるいはWwであれば、他の遺伝子の型が何であろうと、かならず全身が白一色になります。 wwの場合だけ、他の色を決めている遺伝子が有効になり、白以外の色も出てきます。 とりあえず、ここまでは通常の遺伝子型と表現型の話で説明できます。 2.白斑模様を規定するS遺伝子の話 W遺伝子の話からわかるように、以下の話は、wwの場合に限ります。 S遺伝子が発現していると、W以外の他の色を規定している遺伝子にも影響が出て、白の斑模様になります。 斑模様ですから、当然、白色以外の遺伝子が関与します。どの遺伝子が関与するかによって相手の斑模様の色が決まります。 遺伝子型がSSの場合、白の斑模様が大きく、Ssの場合、白斑模様が小さくなります。ssの場合白斑はなく相手の色になります。 これは不完全優性の例で、アルデヒド脱水素酵素遺伝子とお酒の強さみたいなものですね。 遺伝子型がSSの場合、尾以外の部分がほとんど白色であっても、尾の部分には色がついています。つまり、SSで尾が白くなる場合は全身がほぼ白くなります。尾だけ白いネコはいません。 ここまでの話は、常染色体上の遺伝子の発現のしかたの説明ですので、オスとメスにちがいはありません。 3.X染色体上の茶色の色を規定するO遺伝子の話 O遺伝子はX染色体上にあり、発現すると茶色になります。o遺伝子をもてば、他の色を規定する遺伝子が関与して一般に黒色になります。 まず単純なオスの場合。 オスはX染色体をひとつしか持っていません。 したがってO遺伝子の対立遺伝子の概念はなく、O遺伝子を持つかo遺伝子を持つかの、いずれかしかありません。 オスネコで、ふたつの対立遺伝子の遺伝子型が、ww ss の場合、O遺伝子を持つと茶色になります、o遺伝子を持つと黒色の猫になります。 オスネコで、ふたつの対立遺伝子の遺伝子型が、ww SS または ww Ss の場合、O遺伝子を持つと茶斑になり、o遺伝子を持つと黒斑の猫になります。 SSかSsかによって白斑の部分の割合が変わります。 メスネコで、OOあるいはooの場合、X不活性化があったとしても、もともとOあるいはo遺伝子しか持っていないので、全身の細胞でOあるいはo遺伝子のみ発現するため、X染色体をひとつしか持っていないオスと同じような模様を示します。 ふたつの対立遺伝子の遺伝子型が、ww SS、あるいはww Ss で、なおかつOoの場合、白、茶、黒の三毛猫になります。 ww ss Ooの場合は白色のない茶、黒二毛猫になります。サビネコですね。 話がややこしくなりましたが、3つの遺伝子の遺伝子型と表現型を表にしてみると簡単に理解できます。 また、どの遺伝子型からどんな仔ネコが生まれるか、その割合はいくつかなど、これも表にしてみるとよくわかります。 チャレンジしてください。 ここまでの説明で、オスの三毛猫、サビネコがいないのがわかったと思います。 何事にも例外があります。 オスでもO遺伝子とo遺伝子の両方持っていれば三毛猫になる可能性があります。 たとえば、染色体数異常で、XXYの場合、Y染色体を持っているためオスになり、XXにOとo遺伝子がそれぞれのっていれば、オスで三毛猫になることもあります。 2-6 で説明したように、XXYはヒトにもみられます。クラインフェルター症候群と呼ばれています。 ヒトの場合、500人にひとりの割合で生まれてくるらしい。 ネコはなぜが少なく、3万匹に1匹程度で、かなり珍しいため、重宝がられています。 ちなみに、招き猫は一般に三毛猫ですから、三毛猫そのものもありがたがられ、縁起のいいものと思われています。 4.アグチパターンを規定しているA遺伝子の話 せっかくここまで話がきたので、もうひとつだけ対立遺伝子を追加しましょう。 アグチパターンを決めるA遺伝子(優性)とa遺伝子(劣性)です。常染色体上にあります。 これはX染色体上にあるO対立遺伝子とのかねあいで表現型に違いが見られるので、三毛猫とも関連しています。 以下の話も、もちろんいずれもwwの場合です。 O遺伝子を持っていると、アグチ遺伝子であるA遺伝子の遺伝子型がなんであろうと、茶色になります。 メスで遺伝子型が ww OOの場合、茶色や茶斑になるわけです。 o遺伝子があるとき、A対立遺伝子の効果が現れます。 o遺伝子を持っていて、遺伝子型がAAまたはAaの場合、アグチパターンがみられます。 すなわち、毛の先端と根元が褐色で中間が黒色になります。 o遺伝子を持っていて、遺伝子型がaaの場合、根元から先端まで黒一色の毛が生えてくることになります。 つまり、メスで遺伝子型がooの場合、アグチ遺伝子のパターンが発現することになります。 ここまではOまたはo遺伝子を持っているオスにも当てはまります。 メスで遺伝子型がOoの場合、さてどうなるでしょう? 表を作って考えてみてください。
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